今回、ぜひとも訪れたいと思っていたのが新しくなったデザイン・ミュージアム(Design Museum) 。いくつか事情が複雑なので整理していく。まずはデザイン・ミュージアム(Design Museum) 。
デザイン・ミュージアムは、テレンス・コンラン(Terence Conran)ら創立者が、もともとタワー・ブリッジ近くのテムズ川沿いに位置する倉庫を買い取り、デザインの歴史を網羅する美術館へと改修したものである。
そこが手狭になってきたことで、コンランの寄付によって美術館はより広い面積を持つ建物へと引越しを画策する。
その引越し先として目がつけられたのが、今度はロンドンの西、日本でも有名なハロッズがあるケンジントンにあり、1962年にRobert Matthewsなどによって設計されたCommonwealth Instituteという建物。
そこで地域の総合開発が計画される。それを手掛けるのがレム・コールハースが率いるオランダのOMAとロンドンを拠点とするアリーズ&モリソン(Allies and Morrison)。周囲は閑静な住宅街ということで、敷地の前面に二棟の高級集合住宅を建設し、その売却額で計画全体の費用をカバーする計画のようである。
そしてCommonwealth Instituteの改修。戦後のイギリスにおけるモダニズム建築を代表する設計で、巨大な空間を双曲放物面の特徴的なコンクリートの屋根が覆うものであり、その良さを生かすために、外部に関しては前面の集合住宅を手がけるOMAとアリーズ&モリソンが手がけ、内装は別にミニマリズムの建築家として知られるイギリス人建築家ジョン・ポーソン(John Pawson)によって設計されたという。
なんとも複雑であるが、そのジョン・ポーソンについて。1949年イギリス生まれの建築家。幼少期は名門イートン校に通ったエリート中のエリート。20代で日本に学び、倉俣史朗から多くの影響を受け、イギリスに戻った後はAAスクールで学び、その後自らの事務所を設立。代表作は主にミニマルな個人住宅であるが、公共性を持つプロジェクトも数々手がける。
1987 Wakaba Restaurant London
1988 Cannelle Cake Shop London
1988 Runkel Hue-Williams Gallery London
1995 Calvin Klein Collections Store New York
1996 Jigsaw Store London
2001 New Wardour Castle apartments
2004 Nový Dvůr Monastery
2004 Abbey of Our Lady of Nový Dvůr Bohemia, Czech Republic
2005 Hotel Puerta America, Madrid
2006 Leçons du Thoronet Provence, France
2006 Sackler Crossing Royal Botanic Gardens Kew, London
2012 Archabbey of Pannonhalma Hungary
2013 Moritzkirche Augsburg, Germany
2014 Nový Dvůr Industry Bohemia, Czech Republic
2015 Gallery London, United Kingdom
2015 Christopher Kane Store London, United Kingdom
2016 The Feuerle Collection Berlin, Germany
2016 The Design Museum
2017 Farini Bakery & Café,Milan, Italy
そのミニマルなデザインは日本でもファンが多く、多くの建築家がその作品集を一冊は持っているといっていい建築家であるだろう。
さて、訪れた日は、ロンドンとは思えない高温だった。うだるような暑さの中、空調の入っていないバスで長距離移動するのは自殺モノだと、手前の集合住宅の一部に入るギフト・ショップ前の日陰でしばし休憩。前面はとにかくお金を稼ぐということか。
横に広大なホランド・パーク(Holland Park)が広がるために、どうしても入り口が片側によってしまう敷地の特徴からか、訪問者の入り口のすぐ横に、美術館の搬入口が並置される珍しい構成。できるだけその存在を目立たせないように、折りたたみ式の穴あき鉄板が採用されている。
入り口を入るとすぐに左にレセプション。「あれ?」と思っていると右側に立っていた地元住民によるボランティアだろうか、高齢者のおばさんが話しかけてきてくれて説明をしてくれる。それはありがたいのだが、この配置だと訪問者の動線をチケットを買う人で思いっきりブロックしてしまうんじゃなかろうか・・・といきなり不安になりながら、右のショップに。ここもポーソンの設計だという。
中心に大きな吹き抜けがあり、その周りに各階廊下を通って窓際の展示室にアクセスするという構成。なのでどこの展示室にいても、このアトリウムに出てくれば全体を見渡すことができ、自分の居場所を確認できる。そのアトリウムの上部には元の建物の特徴的な双曲放物面による天井のコンクリートが剥き出しに力強さを表現する。一階部分には恐らく新しく増設されたと思われる人が座れるようになっている大階段。ここに多くの来客が座ってパソコンを開いたりして作業しており、アトリウム空間に賑わいを与えつつ、下から上までこの美術館の中心的な空間として鎮座する。
その横には地下の展示室へと続く階段があるが、基本的な動線としては、エレベーターで最上階にアクセスし、そこからグルグルとめぐりながら降りてくるというもの。四方を巡る廊下幅を狭めることなく、二箇所設けられた階段を設置するために、下階は少しずつ広くなっていくことになる。これを繰り返し1階の階段の幅が決まってくるという訳の様である。
これだけ背の高い空間が各階で開放的に繋がっていると、どこで防火区画をとっているのかと、天井を見ながら巡っていくが、オーク材で仕上げられた内部は徹底した間接照明も手伝って、上質なホテルのような雰囲気。常設展示はかつてのデザインミュージアムにあったものを再度整備したようで、近年からも選ばれた良質のデザインが見られるのも楽しい。
企画展ではノーマン・フォスターが監修したカルティエの歴史についての展示が。展示空間としてありなのか?と思うほどの暗い展示室に、うらやましさを感じる。
来客者用のトイレはすべて男女兼用。昨年も思ったが、さすがイギリスというのか、進んでいるなと思いつつも、やはり使用する側はそんなに気分がいいものではないのは、習慣のなせるものなのか。
これは後で友人に聞いたのだが、使用効率を高めるというよりも、トランスジェンダーへの配慮という意味合いの方が強いようである。寛容と包括。建築の世界も、政治と社会の変化から様々な変化を求められているということであろうか。
Holland Green / OMA + Allies & Morrison
搬入口
搬入口
レセプション
ボランティアの案内
ショップ
男女兼用トイレ
フォスター監修によるカルティエの展覧会
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