今日ハムステッド(Hampstead) まで足を伸ばした理由は、ハムステッド・ヒース(Hampstead Heath) と街の散策とは別に、こちらもぜひと友人に勧められた住宅を見学するため。
その住宅はイギリスのモダニズム建築を牽引した建築家エルノ・ゴールドフィンガー(Erno Goldfinger)が自分が住まうために作ったテラスハウス。3軒で一つの建物となった建物の中心、一番広い住居にゴールドフィンガーは家族とともに住まい、スタジオとしても使っていたようである。
そのゴールドフィンガー。なかなかインパクトのある名前であるが、元々はハンガリーのブタペスト出身のユダヤ人。ちなみに生まれは1902年の9月11日。誕生日までインパクトのある人物である。
1914年から1918年にかけて引き起こった第一次世界大戦終了後の1921年、敗戦国のハンガリー帝国から戦勝国のフランスへ、建築を学びに留学する。そこで第一線で活躍し、モダニズム建築を牽引するル・コルビュジエ(Le Corbusier,1887年生まれ)から強烈な影響を受け、さらにそのコルビュジエの師に当たるオーギュスト・ペレ(Auguste Perret,1874年生まれ)からの影響を強く受けることとなる。
因みにこのオーギュスト・ペレも実は隣国のベルギーのブリュッセル出身というから、その当時のパリが如何に国際都市であり、ヨーロッパ全域から様々なタレントを集める魅力ある場所であったかが伺える。
そして1934年。ゴールドフィンガー32歳のときにイギリス・ロンドンへと移住し、1939年に勃発し1945年まで世界を巻き込むことになる第二次世界大戦までに何件かの住宅を設計し、そのうちの一つであるこの2 Willow Road に家族とともに住まうことになる。
1939 2 Willow Road
1963 Alexander Fleming House (Metro Central Heights)
1967 Balfron Tower
1967 Carradale House
1972 Trellick Tower
主な仕事としては、戦後の復興住宅としてロンドンで建てられた高層住宅の設計でよく知られる建築家でもあるが、その中でも特に有名なのが1972年に完成したトレリック・タワー(Trellick Tower)。そのタワーを思い出すときに、連想されるのがこの夏ロンドンを襲った悲劇、高層住宅での火災事故。多くの死傷者を出したこの高層住宅もまた同時期である1974年に設計された同種の建築である。
話を戻しこの2 Willow Road。現在はナショナル・トラスト (National Trust)によって保護・運営されている。このナショナル・トラストとはイギリス国内において、歴史的建築物の保護を目的として英国において設立されたボランティア団体とその運動。日本でも耳にするDOCOMOMO Japan。その本部であるDocomomo Internationalがオランダで発足したのは1988年であるが、それに比べこのナショナル・トラストは1895年発足というから、さすがはイギリス。文化への意識の高さがこの部分からもよく感じられる。
そんな訳で内部を見学するには、このナショナル・トラストの係員によるツアーに参加する訳になるので、それなりの入場料を支払うことになる。上に上がれるのかと思うが、まずは横の暗いガレージスペースに入れられて、ゴールドフィンガーとこの住宅に関するビデオを見させられることに。もちろん空調など聞いていないので、汗が噴出してくるのをタオルで拭きながら観終わってロビーに戻ると、「じゃあ上へ」と、印象的なディテールをまとった螺旋階段を上っていく。
住宅の前面と後部に数段の段差が設けられており、それが空間をつなげるのと仕切るのに非常に良い役割を果たしている。また螺旋階段が作り出す特徴的な曲面が、浴室やなどによいアクセントを作ってくれる。その流動的空間はヘルシンキのアルヴァ・アールト(Alvar Aalto)の自宅を思い出させるが、調べてみるとあちらは1936年に完成。こちらは1939年だから、互いにヨーロッパを覆うモダニズム建築の流れの中で、模索しながらも近しい空間を追いかけていたことが見て取れる。
内部での写真撮影は禁止ということで、実際にスタジオとしてつかっていたという作業机など、細かい気くばりのされた棚がついていたり、何とも美しい抜けがある壁つきの本棚など、とても品の良い内装に、今でも多くのことを学べることができると、じっくり見てまわる。
3階部分は最上階ということもあり、螺旋階段の上部に気持ちの良い円窓が取られ光を落とし、その裏側に当たる浴室にも同じように天窓からの光を取り入れ、前と後ろの間になる中間部にも、外部とのつながりをしっかりと取り入れているのに関心しながら、「毎日の生活を営む住まい」、それは時間を過ごすことで徐々に成長し、同時に徐々に家族の生活のリズムにぴったりと寄り添うようになるのだろうということが感じられるとても身の丈にあった、そしてとても品の良い空間が体験できる。
家具から器や雑貨、すべてにそこに住まう人の美意識、生活のリズム、そして過ごしてきた時間が漂う。そんな空間に住まうことの喜びを感じられる「住まい」を自分たちもいつか手に入れたいと思いを新たにしてこの住宅を後にすることにする。
待合室
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