母校のイギリス・ロンドンのAAスクールという建築系の大学でエクスターナル・イグザミナー(External Examination)を引き受けて今年で三年目。
External Examinerというのは、イギリスの大学のシステムの一貫で、一年の終了時に国が定める(この場合はイギリス建築協会)の大学教育としての基準に、「学校が達しているかどうか?」と外部の専門家によって判定してもらうというシステム。なので一般的なレビューと言われる学生の作品を見て批評するものではなく、むしろ先生とその教え方に対してのチェックをする。
二日間にかけて、Intermidiateと呼ばれる1年から3年までのユニットを初日に、4,5年生を対象としたDiplomaのユニットを二日目に見ることになる。それぞれの人もExaminerは二人一組となり午前・午後それぞれ一つのユニットを審査していく訳である。
審査の内容としては各ユニットを率いるユニット・マスターが最初にその年のアジェンダや学生についての概要をExaminerに伝え、その後そのユニットの最終学年に属する学生が、およそ10分程で一年通して学んで行ってきたプロジェクトをパネル、模型、スクリーンなどを駆使しながら説明する。全員が終わった後に、学生を外に出して、ユニット・マスターに対して二人のExaminerがそれぞれにコメントをし、それを元に如何にユニットを良くしていけるかなどを議論し、最後の学生を再度部屋に呼び入れ、総括をあげるという流れ。
それぞれのExaminerが持ち寄った結果をそれぞれの日の最後に全てのExaminerと学長が一緒になって振り返り、学校としてそれぞれの学年として、また個別具体的にそれぞれのユニットとしてどんな問題があるかどうか、それをどう向上させられるかどうかなど、喧々諤々に議論をし、それを持って全てのユニット・マスターが待つ部屋に移動し、Examinerが一人づつ総括を伝えていくというもの。
External Examinerはイギリスやアメリカの大学でながく教鞭をとっているアカデミック畑の人と、建築家として実務についている人の間でおよそ半々のバランスで選ばれており、男女比もおよそ半々になるように考慮されているということ。
AA出身の人もいれば、学校のレクチャーやクリティックで縁ができて呼ばれた人もいるようであるが、現在の学長であるブレット・スティール(Brett Steele)は自分が大学院で学んだときの直接の先生であり、現在はザハ・ハディド事務所を率いるパトリック・シューマッハ(Patrik Schumacher)とともに、AAスクールの大学院におけるデザインコースであるAADRLを創り上げ、現在のアルゴリズム設計を牽引するまでに育て上げてた功労者であり、同時に卒業後もパトリック同様に何かとお世話になっている縁もあり、3年前にExternal Examinerとして声をかけてもらったら、それはやはり首を縦に振るしか無い訳である。
そのメンバーはというと、4年間勤めることもあったり、どうしても仕事の関係で日程が合わなかったりと、毎年数人違ったメンバーが入ることになるのだが、ほとんどのメンバーは数年来顔を合わせて、濃密な二日間をともに過ごしているので、すっかり顔なじみとなる訳である。
そして今年のメンバーは以下の通り。
Roz Barr:Roz Barr Architects
Patrick Bellew:Atelier Ten
Mary Bowman:Gustafson Porter + Bowman
Alison Brooks:Alison Brooks Architects
Pippo Ciorra:Fondazione MAXXI
Hernan Diaz:Alonso SCIARC
Tom Emerso:6a Architects
Homa Farjad:Farjadi Architects
Kathryn Firth:FPDesign
Yosuke Hayano:MAD Architects
Mariana Ibanez:Harvard University Graduate School of Design
Amanda Levete:Amanda Levete Architects
Vittorio Lampugnani:ETH Zurich
Alex Lifschutz:Lifschutz Davidson Sandilands
Fred Manson:Heatherwick Studio
Farshid Moussavi:Farshid Moussavi Architecture FMA
Florencia Pita:PITA & BLOOM
Keith Priest:Fletcher Priest Architects
Wolf Prix:Coop Himmelb(l)au
Elisa Valero:Ramos elisavalero arquitectura
Elia Zenghelis:Yale School of Architecture
「年代や男女比、実務とアカデミック、国籍などバランスを取るのが大変でしょう」と学校側の担当者に尋ねると、深くうなずくその姿に、このメンバーを調整するのがどれだけ大変が納得する。
今年は初日にKathryn Firthとペアを組みIntermidiateを、二日目にPatrick BellewとともにDiplomaを審査するのだが、Examinationの始まる前日の夕方17時に、来られる人が学校に集まり、学長のブレット・スティールと学校の担当者とともに明日から始まる二日間の審査についての流れの説明を受け、それぞれに必要な資料などが配布される打ち合わせがある。
今年は夏前に発表されたニュースで、ブレッドがこの夏をもって10年以上勤め上げたAAスクールの学長を辞め、母国のカリフォルニア大学ロサンゼルス校の建築学部の学長へと就任することが発表された為、次の学長を一年以上の時間をかけ、透明性を保ちながら外部の識者の意見をとりいれながら決定していくために、場当たり的に決めるのではなく、一年間の臨時の学長に就任することが決まった、長くAAで教鞭をとってきたサマンサ(Samantha Hardingham)からも、今後の手続きについて詳しい説明がされる。
こういう話を聞くと、教育機関に対する透明性が、行政や民間企業の天下り先として利用されがちな日本の大学施設と比べ、どんどんと差がついてしまうのが何とも納得できてしまうものである。
仕事の関係で、協同を模索していた事務所の代表であるキース・プリースト(Keith Priest)もたまたま今年からこのExternal Examinerを請けることとなり、ちょうどいいタイミングだということで、挨拶をして彼の事務所に訪れたり、大学院で一つ下の学年に属していたマリアナ(Mariana Ibanez)は、その後大学院での自分のチームメートと結婚したという縁もあり、再会を懐かしみ、彼女も現在教えるハーバード大学からこの秋からMITへ移動するなど、それぞれの近況を報告しあいながら、この学校で過ごした時間とその後に流れた時間の長さを改めて感じる機会となる。
打ち合わせの後は、Examinerとブレットがそろって近くにあるザハも好きだった有名な中華レストランへと移動となるのだが、英語を母国語としない自分にとっては渡された資料をできるだけ読み込んで明日を迎えないと大変なことになるというので、「ちょっとお先に・・・」と抜け出して、学校が手配してくれた近くのホテルの部屋でアカデミックな英語で書かれた各ユニットのアジェンダに電子辞書片手に向き合うことになる。
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