新海誠のデビュー作らしい。
森川嘉一郎の「趣都の誕生―萌える都市アキハバラ」で書かれるように、パソコンの普及によって出現したアマチュア・スターの第一人者という位置づけのようである。勉強不足でまったく知らなかったが、同人誌業界では相当な人物のようだと、2000年以降のアニメ動向を追ってみて分かってきた。
そんな作者が監督・製作・脚本すべてをこなし、今まで溜め込んでその世界観を思う存分ぶつけたのがこの作品というところらしい。音楽もその後の作者の作品を引き続きチームを組む天門が担当し、その後の作品が納得というような世界観を作り出す。
それにしても建築批評の世界も、映画を引用する巨匠達から、小津の低い焦点に現れる風景の切り方などと映画関係者ばりの映像知識を必要する時代から、団塊ジュニア世代を育て上げたジブリ作品の世界観を考察する時代を経て、エヴァを経てたどり着くこのような作品に視られる現代の社会性などということまで重箱の隅を突かなくてはいけないのかと思うと、その苦労を想像しながらも、オタクの世界に現れるある種の無意識の現代性などと、インテリの役割として追っかけ続けるのも大変だと思うが、「こういう作品に時代的意味を見出さなくてはいけない」というある種の強迫観念も行きすぎなのではと思わずにいられない。
ガンダムをテレビの再放送で見て幼少期を過ごし、ジブリ作品とともに少年期を過ごし、エヴァを見ながら青春期を過ごしたであろう世代の作者が、妄想を膨らませて作り上げた世界観。どれだけ科学が発達していようが、お構い無しに踏み切りで電車を待つ田舎の風景。その奇異な共存が意外性を伴う不思議な世界観を作り出すというところだろうか。
何万光年も先の宇宙でガンダム張りの戦闘を繰り広げる一方で、コンビにの前でアイスを食べる中学生。
その後の作品でも何度も何度も繰り返されるようなシーン。開くまでも子供の部類に入る中学生の男女の主人公たちが、引かれながら引き離され、それでも過剰なほどに感情を起伏させるような音楽にそって自らの苦悩を言葉にしていく。
「アガルタ」や「タルシアン」といった、「いかにも」的な名称を考えるのが楽しくてしょうがなかった時代。男の子なら一度ははまる冒険やファンタジーがごっちゃになって頭の中で膨らむ妄想の世界。そこに好きな女の子との純愛が絡み、「あぁ!」とか「いけっ!」という感情を表すいかにも「アニメ的」な単純な言葉。
技術の進歩を表すためのそれらしき難しい言葉たちと、地球防衛軍に小さな少女が戦力として参加するという宇宙モノの王道の世界観。良くも悪くも一人の人間がすべてをやりきり、その人間の妄想がすべて形にされた作品。
それにしても、人をとことん感傷的にさせるような台詞と音楽と世界観。「時間や距離を越え、ただ君がいるからこの世界は存在するんだ」的にとにかく感傷的な登場人物達。
このようなアニメを見て思春期を過ごすと、それはそれは影響され、その性格も相当に感傷的になっていくのだろうと想像せずにいられない。そうして形成された過剰に感傷的な性格で、この獰猛な現代社会で生きていくのはかなり厳しいだろうと思わずにいられない。
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スタッフ
監督 新海誠
製作 新海誠
脚本 新海誠
音楽 天門
キャスト
篠原美香
新海誠
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作品データ
製作年 2002年
製作国 日本
配給 MANGAZOO.COM
上映時間 25分
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