吉本ばななから宮部みゆきに近年では垣根涼介から今野敏、道尾秀介、貫井徳郎と並ぶ山本周五郎賞受賞者作家。安定感のある作家名に並ぶ2011年の受賞作と同時に、池井戸潤 の「下町ロケット」を抑えての受賞となれば、それはそれは期待感も大きくなるもの。
現代日本のなんとも表現しようの無いすべてに薄幕が張り巡らされたかのような様々な事象が盛り込まれ、それぞれがあまりに印象深いタイトルがつけられているので、目次を開いたときには短編集だとばかり思ってしまったが、ある事象をそれぞれの登場人物の視線から描いていくという、「エレファント」的な作品。
子供と大人の間で、うまい具合にその両方を使い分ける高校時代。その中でも時に自分でも抑えきれないほどに自分の中で成長していく「やっかないもの」たち。
・ミクマリ
・世界ヲ覆フ蜘蛛ノ糸
・2035年のオーガズム
・セイタカアアダチソウの空
・花粉・受粉
とても魅力的なタイトルをつけられた各章で描かれるのは、その「やっかいなもの」に振り回されれつつも、とてもまっすぐに生きている魅力的な登場人物。
平凡な高校生活の中で、年上の人妻との不倫にはまり、名前も知らないその女とのコスプレ・セックスに明け暮れる男子。助産院を営むシングル・マザーに育てられ、自宅で「自然な形で」で「生」と触れてきた彼が自然と身につけた人肌に触れる感覚。
ブスでチビでデブだと思って大人になって、男性から求められると断れなかった大学時代。OL時代のいじめから抜け出すようにプロポーズされた男と結婚するが、不妊に対する姑の非難に堪えながら、徐々にアニメのコスプレ世界へと逃避する女。
お兄ちゃんは賢くて、あなたはかわいいだけでいいのよと育てられて入った高校で、好きになれる相手が見つかったが、その相手のコスプレ・セックスのビラがばら撒かれ、どうにも関係がうまくいかない女子高生。家では賢すぎる兄がフリーセックスの教団にはまって家族が崩壊しそうになった時に襲ってきた大嵐で浸水する家。そこで再度繋がる家族の絆。
日本全国どこにでも出現する団地風景。その風景が示唆するある種のイメージとそこに生活する人のライフスタイル。そんな風景と違わず、トンネルを抜けた先にある団地で、父が自殺し、母が別の男と出て行き、抜け出すこともできずに、ここで痴呆の祖母と暮らす男子。お金が無くて、食べるものも無くて、どうしようもなくてバイト先の店長の財布に手を伸ばす。
それぞれの登場人物の設定や生きてきた時間、彼らから見えている風景が非常に精密に設定されており、物語がどちらの方向に流れていってもの破綻が見えない。作者がどれだかこの世界に没頭し、一緒になって世界を歩き回ったかがよく感じられる良作。
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第24回(2011年) 山本周五郎賞受賞
第8回(2009年) R-18文学賞受賞
2011年本屋大賞第2位
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