九壇八廟の「壇」採集。その最終目的地となったのがこの日壇 (日坛 Dìtán)。
昨年北京に戻ったばかりの頃は、何とか日常生活のリズムを作ろうと、毎朝必死にランニングにでかけた時の折り返し地点としてよく中を通り抜けたこの公園。大気汚染が肺に与える影響のお陰でランニングを中止するまでに良く来たはずだが、その時はまだ後々「壇」にはまるとは思ってもいなかった。
日壇(日坛) 別称を朝日壇(朝日坛 cháo rì tán)
例のごとく昼過ぎにはオフィスに出なければいけないので、せめて日曜のランチくらいは贅沢をと、新しく出来たショッピングモールに入っている日本の老舗のトンカツ屋に向かうがやはり長蛇の列。予約を入れるとちょうど40分ほどだというので、その間に「壇」へと向かう事にする。
さてこの日壇公園。壇公園の中で唯一無料で市民に開放されており、そのお陰でランニングする人や太極拳に勤しむ人の姿を多く見ることができる。ロシア人街となっている北門エリアから内部に入るとまず目に入るのは大きな朱色の門である北天門。それを抜けると鮮やかな黄色に色を変えた大きなイチョウの葉が地面を埋め尽くし、綺麗な黄色のカーペットを作り出している。
枝で覆われた黄色のトンネルを抜けて更に南に下ると、左の方に如何にもな塀が視界に入ってくる。特徴的な朱色の壁が円状に湾曲している為に、方形で構成された公園の中で明らかに異彩を放っている。
まずは北門から見てみるが、どうにも門が閉ざされているようである。鍵のかかったその隙間から中を覗いてみてみるとやはりそこには壇があるが、天壇、地壇の様に塀が何重にも囲われて壇も何層にも重なっている訳ではなく、一重の塀に一段の壇という構成の様である。
壁にそってぐるりと西に向かって回ってみると、円に沿って移動するとすぐに距離感覚が鈍るのかあっという間に西の門にたどり着く。そこで気づくのは先ほどの北の門と違って今度は三つの門で構成されている。後ろを振り向くと、ずっと先に立派な西門が見え、そこまでの道は真ん中に大きな石が敷き詰められる如何にもな舗装形式。
横に置かれた説明を見ると、やはりこの道は皇帝が通る路だと言う。この日壇は、明と清の皇帝が「太陽の神」を祭った場所であり、天壇、地壇、月壇と同様に明時代の1530年に建設された。
それゆえにまたの名を朝日壇(朝日坛 cháo rì tán)とも呼ばれ、祭壇は西を向いて建てられているという。普通太陽を崇めるのなら、太陽が昇ってくる東を向いて建てられそうなものだが、太陽が沈んでいく西に向かって建てられたのか、それとも北京の中心にいる皇帝に向けて建てられたのか想像力を刺激される。
兎にも角にも皇帝がこの場所に祭事の為にやってくるというが、ではどこから来るか?それは紫禁城(故宮)。つまり北京中心に位置する紫禁城から北京の東に位置するこの日壇までやってきた皇帝は、西門より中に入り徐々にこの朝日壇にアプローチする。つまりは西門にあたる西天門から朝日壇にいたる道は皇帝が通る神聖な道であり神路と呼ばれ、そして皇帝がくぐる朝日壇の西側の門もまた他の、北・南・東の門に比べ特別な設計がされており、3つの門となっている。
そんな訳で更に進んで南の門を見ても、北と同じく一つであり、その先の東の門もまた同じく簡単なもの。円という無方向性な図形に対して、東西南北という絶対方位を与え、更に西に向けることで正面性を作り出す。それはその概念を理解したものにしか見えてこない観念的な図形であり、文化を理解するものにしか語りえないものだと思うと、建築に込められた深い思いに改めてゾッとする。
中に入れないのは残念だが、無料で開放している以上、文化財保護のためにも必要なのかと思いながら、更に公園内を散策してみるが、自分の顔以上の大きさを持つイチョウの葉を拾い集める子供連れの姿を眺めながら、どこの国でも巨木が残る風景はやはりいいものだと改めて思わされながら、一先ず終えた「壇」採集と次はどんな楽しみを見つけるかに思いを馳せながらトンカツを食べに戻る事にする。
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