中国の建国記念日を祝う国慶節は毎年10月の頭から始まる。その時期に合わせて日本に戻ってくると季節の風物詩の様に目に飛び込んでくる風景がある。それが、大きな製図板を脇に抱えて緊張した顔つきで街をいく人の姿。
毎年一度行われる一級建築士試験。自身が苦しんで受験し、なんとか合格したのはもう何年も前になるが、毎年この時期になると緊張と不安で一杯一杯になっていたあの頃を思い出す。間違いなく人生で一番勉強し、製図板に向かっていたあの頃を。
建築家という職業は重力を扱う構造や、外部環境を調整する設計の仕方など根本的には変わらない知識の部分に対して移り変わる社会と共に要求される建築の内容も変わり、それに対して常に知識と技能の更新を行っていかないといけない職業である。
一級建築士という資格は、国土交通大臣が認定する国家資格であり、国があなたには社会に対して責任を果たす能力があると認定してもらうものであるから、それを判断する試験も巡り巡って国交省のお役人が作る事になる。そして彼らが毎年出してくるのは、現代を生きる建築家として必要な能力の有無を確認する問題。
そういう訳「試験」という緊張感を伴う場には上らなくとも、やはり国がどういう社会問題を重要視し、建築に関わる問題だと捉えているのか?またそれに対してどのような解法もしくは知識が必要とされているのか?を注視していくことは、建築家の職能としてとても必要な事だと思っている。
そんな訳で近年出題された課題とその模範解答なるものを眺めては、どんなことが今の一級建築士試験で問われているのかを頭に入れるようにする。
H24 一級建築士製図試験 「地域図書館」
H23 一級建築士製図試験 「介護老人保健施設」
そして今年は、「大学のセミナーハウス」。
「介護老人保健施設」、「地域図書館」と言わば「高齢化社会」、「縮小都市の再編成」という現代的な問題が見え隠れする過去二年の出題に比べると、社会的要素が見えにくい気がする今年の課題内容。
それでも何かあるはずだと、昨年同様色々とHPを調べてみては知識を更新していくことにする。
一級とるぞ!.Net
日建学院
課題の意図するところは、有名大学ですら学部によっては定員割れを起こすようになってきた現代。つまりは「少子化時代」。各大学は生き残る為に様々な手を使いながら魅力ある大学、魅力あるカリキュラムの創造を努めている。と同時に、「生涯教育」が叫ばれるようになって久しい現代には、大学が若者だけの場ではなく、多くの世代にとって開かれる場になり始めている時代において、大学経営の助けとなる大学内部の施設としての「セミナーハウス」の在り方を問うという内容のようである。
学生だけでなく社会人も利用することを想定され、ゼミなどで宿泊をしながら研修会を行うなどの様々な使われ方を想定される機能を持つ。その為に、同時に様々な人々が利用できるようにセミナー部と宿泊部の区分をはっきりされることが必要となり、利用者と管理者の動線の区分、衛生状態を守る為の動線計画、そして管理が容易なことなど、様々なことを同時に考慮する必要のある施設となる。
セミナー室は1.5㎡-2㎡/1人を元に面積計算をし、勾配屋根を利用してエントランスに背の高い空間を配置。その勾配屋根部分の構造計算を助ける為にスラブ厚を多めにとってやり、アトリエなどの部屋は室内環境を考慮して空冷ヒートポンプにする。
環境への配慮は自然採光をできるだけ取れるように開口部を広く設け、日射遮蔽と空調エネルギーの削減の為に日射遮蔽ルーバーなどを設置。ガラスはもちろんLow-E複層ガラスで外部負荷を低減させる。
大よそそんなところなのかと想定する。製図板の黒い入れ物を持って予備校に通う必要のなくなった週末に、久々に街に出ると世間はこんなにも週末を満喫し、楽しそうに街に繰り出しているのかと唖然とする半年間という時間を必死にこの試験に向けて費やしてきた多くの若者がいるのだろうと勝手に想像する。
彼らも年末には見事に足の裏の米粒に手が届けばいいなと思いつつ、自らも職能を高める為に、ひたすらに前に向かって進んでいかなければと改めて気持ちを引き締める。
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