2013年10月20日日曜日

「夜は短し歩けよ乙女」 森見登美彦 角川文庫 2008 ★★

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第20回(2007年)山本周五郎賞受賞・2007年本屋大賞2位
第137回(2007年上期)直木賞候補
第3回(2010)大学読書人大賞
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「命短し恋せよ乙女 紅き唇 褪せぬ間に 
赤き血潮の冷えぬ間に 明日の月日の無ひものを」

黒沢明の「生きる」の中で、主人公が歌うシーンが印象的なこの歌。
佐川満男の「ゴンドラの唄」の一節である。

何ともゴロの良いその歌にインスピレーションの源泉があるのがいやがおうにも感じられるタイトルから、如何にも昭和の匂いが漂ってくるような物語を想像する。

その中心にあるのは、「乙女」と「夜」。

太陽の光に晒されて、見せたくないものまでも見えてしまう昼間の世界。その世界が反転し、闇の中に潜り始め、艶かしい月の光に照らされて、全てを見ることができなくなる事で、想像力をより刺激しだす夜の世界。その世界では「乙女」がより妖艶に映りだす。

そんな「夜」をいまでに持ち合わせている街が、蛍光灯で隅の隅まで照らされた現代日本の中で一体どこに存在するだろう?

その答えは恐らく片手の指で折れるくらいの数になるだろう。そしてその筆頭に挙げられるのが「京都」。高瀬川の流れに沿った石畳の街路はかつての古都のスケール感は、まるで行きかう女性を平安の世からタイムスリップしてきたかのように照らし出す。狭い街路の上を見上げれば、怨霊達が飛び交い、その後ろからは陰陽師たちが印を切りながら飛んでいく。幕末の志士が走り去り、叡山から坊主達で駆け下りてくる。毎晩夜の闇に紛れて、街のあちこちで歴史の亡霊が顔を出す。そんな夜の街。

京大出身というだけあって、非常に細やかさ街の描写がされている。恐らく長らく京都に居を構えた人間でなければなかなか出来ないような断片的な街の描写。決して俯瞰的で、地図を上から眺めたような描写ではなく、スポットごとの断片をつなげていく事で街を浮かび上がらせようとする。

夜の闇にファンタジーを織り交ぜようとする為に、その舞台となる街はより正確であるべきだということなのだろうが、たまにグルグル巻き上げられたり、プカプカ浮かび上がっていく視線から街をどうとらえるのか?そこにも一つ何か欲しかった気がしてならない。

どうもその語り口調と断片化の手法、そしてファンタジーの織り交ぜ方が「パプリカ」を思い起こしてしまうなと、最後までその思いを払拭できずに読み終えてしまい、なんとも消化不良となった一冊。

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