2013年10月5日土曜日

「ネット帝国主義と日本の敗北―搾取されるカネと文化」 岸博幸 2010 ★★

今世界中の人が毎朝オフィスでパソコンを開くたびに頭を抱えているのだろうと想像する。

その視線の前にあるのは、「もうすぐiGoogleのサービスが終了します」のメッセージ。

水や電気と同じように日常を支配するインフラとしてのネットの、一番のベースが覆されるようなものである。まさに一大事。箱に詰まった砂をトントンと叩きながら慣らしていくように、長年をかけて徐々に自分の身体に一番あったホームページとして培ってきたiGoogleをあっさりと「終了します」と終えられる・・・

ネット世界の巨人、Googleに染まって生きる生活を選んだ以上、こういうことは不可避だと理解しながらも、ネット上に溢れる代行サービスのページを試しながらも、未練がましい男の様に、未だに毎朝画面に現れるメッセージに心を痛めつけられる日々を送る。

そんなサブリミナル効果からではないと思うが、たまたまブックオフの100円コーナーで見つけたテレビでお馴染みの経済学者の関連書籍。誰もが気がついているが誰もが声にして言ってこなかったことだと興味を持って手にした一冊。

ネットが完全に日常に入り込んだ現代の生活。歯を磨くのと同等の無意識でネットを利用する現代人にとっては、それは「無料(フリー)」であるというのが常識になっている。そのネットはインフラ、プラットホーム、コンテンツの3つのレイヤーから構成されており、ネットビジネスが混沌期からある種の秩序を持ち始めた今改めて見てみると、真ん中に位置するプラットホームを提供する企業、グーグル、ヤフー、アマゾンなどだけが一人勝ちの状況を呈しているという事実。

それは同時に「コンテンツはフリー」という状況を作り出し、それがネット以前までに培われてきた「文化」を浸食し始めている。これも大きな問題だが、更に大きな問題はそのプラットホームのビジネスを牛耳っているのはアメリカの企業だという事。

そうだよね・・・

と感じてはいたが、改めて振り返って考えてこなかった問題点を整理してくれているので、ある種の心地よさを感じながら読み進める。

インフラを牛耳ることは、その国の文化まで見えないうちに牛耳る事になり、同時に全ての情報を好きなように使用できる事になる。それが一国の企業によって全て成されているという事が異常事態だと映っていないことに警鐘を鳴らす。

確かに今全世界でグーグル以外の独自の検索エンジンがシャアを誇っている国といったら、恐らく「百度」を要するこの国以外にないのではないかとゾッとする。恐ろしいほどフィルターがかけられているといわれているが、それでもこの本を読んだ後は少なくとも他国にプラットホームを牛耳られているよりはよっぽど国として健康的なのかと思わずにいられない。

そうかそうかと読み進めるが、ふむふむと思っている間に読み終えてしまう。目次を見て上がった期待値が、「ならば現状打破するにはこうするべきだ!」と明るい提案があるものばかりと思っていたがそうではなくて、極めてさらっとした内容。

さてプラットホームの巨人との付き合い方を考えなければいけないなと思いながら、11月からパソコンのホームページをどこにしようかそろそろ決めようと思うのに丁度よい一冊。
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目次
第1章 
ネット上で進む一人勝ち
/ネットがもたらしたプラスとマイナス
/ネット・バブルの歴史
/ネット上のサービスの構造


第2章 
ジャーナリズムと文化の衰退
/新聞の崩壊
/音楽の崩壊
/社会にとってのマイナス


第3章 ネット上で進む帝国主義
/米国の帝国主義を助長するエコシステム
/プラットフォームの米国支配の問題点


第4章 米国の思惑と日本が進むべき道
/グーグル・ブック検索
/米国の戦略と野望
/ネット上のパラダイムシフトの始まり


第5章 日本は大丈夫か
/プラットフォームを巡る競争の激化
/ジャーナリズムと文化をどう守るか
/日本はどうすべきか

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