2012年12月28日金曜日

「30代が覇権を握る! 日本経済 」冨山和彦 PHPビジネス新書 2012 ★


現代の社会構造の基本は、戦後生まれの日本では「団塊」と呼ばれる世代を中心に形成されてきており、その当時にこれからの社会の前提とされたことが崩れ、システムとして成り立たなくなっているのに関わらず、「大多数」であるその中心世代の既得権を守るために、「歪な形」で社会が持続させられ、既に労働という社会を支える役割から退き、社会に支えられる側に回っている団塊世代が、高度成長という時代に乗って蓄え保持する3分の2を超える個人資産を市場に回す形で現役労働世代に再分配することなく、むしろ歪な社会保障制度と年金制度を楯にして、十分な蓄えがあるにも関わらずさらに年金という現役世代の給与よりもはるかに多い給付金を、資産もなく、所得も少ない貧困現役世代からそれでも搾取しつづける。

こんな仕組みがある限り、この国は破滅に向かって一直線であり、生まれた時代という選択の余地のないまま「負け組」世代の先頭を走り、苦しみながら、それでも歩き続けなければいけない30代に、いい加減無理をするのをやめて「革命」を薦め、逆に団塊世代には、十分おいしい思いはしてきたのだから、これから先は「自分だけはもっとお金を・・・」と国から、引いては自分の子供や孫たちに負担をかけて死んでいくのではなくて、この国の未来のために美しい自ら進んで犠牲になる「品格のある」振る舞いを要求する。

構造改革だ、規制緩和だと叫ばれて、なんとなしに時代の空気に誘われて「頑張ったものが報われる社会になるのなら、それで貧乏になっても自己責任だ」と新しい社会の在り方を肯定してみたものの、個人の力がはるかに及ばないところで起き始めた世界経済の構造変化。ウォール街で声を上げた人の中に、派遣村で寒さを凌いだ人の中に、どれだけの年金受給者がいただろうか?絶縁社会や、孤独死、消えた100歳老人や生活保護の不正受給。この5年でポツポツと湧き出した諸々の事象はその下に流れるマグマの様な根本的な問題の一側面に過ぎなかったことが明らかになりだした10年代。

その最大にして最強の原因が、かつての青図とすっかり逸脱してしまった歪な社会構造。世代間の人口がこれほど異なるという人類史上初めて経験する事態にも関わらず、1票の格差を遥かに超える世代間の不平等がまかり通る社会保障や年金制度が維持されて、若者がその力を発揮しようにも、「まだまだ現役で」と暴走老人が社会の真ん中で既得権を抱きしめながら仰け反っており、自分のお金を出すのはいやだと、個人資産はひっそりと金融商品につぎ込んで、まったく機会すら若者に与えない現代。「最近の若者は元気がないから。戦って勝ち取らないと」と既得権の土俵の上でほえ続ける老人達を白い目で眺める若者達。

現状と想定のギャップの大きさは誰もが理解するが、それを補正するためには誰もが血を流す必要があるけれど、若者に対してより大量の血を流すことになる団塊世代が社会の舵取りをする限り、どんなに頑張っても構造改革は行われず、個別論としてすりかえられて結局は問題を後送り。そんなことを繰り返すこの10年。

それでも未だに「姥捨て」や「老人狩り」が行われないのは、やはり日本人としての良心のなせる業だと思わずにいられない。

本当はもっと怒るべきである現在の若者。その中でも最も声高に、もっとも激しく行動に出るべきは、逆風を一番受けて生きる現在その職業人として一番心技体の能力が高まる時期を迎えようとする30代。どんなに怒っても、一番苦労する世代。

人口1億程度の国土と現状に合致した日本らしい新しい次の社会構造に変化するのに少なくとも30年はかかる。その時には職業人としてのプライムタイプを既に過ぎ、今度は次のプライムタイムを謳歌する世代のために品格ある行動で道を譲り、迷惑をかけないように山をおり、たまに必要なときには求められれば助言をして生きる世代。

報われない世代だと誰もが理解し、それでも自分達の子供たちのために、新しい日本のあるべき社会構造への変革期を、想いを持った同年代の同志達と連携しながら、誰かが力を抜くのでは無く、誰かが倒れたら方を貸すように助け合いながら人類史上最も激しい逆風を生き抜こうと決めた寡黙な世代。

あまりの勢いに足がよろけそうになった時に、そっと後ろから支えてくれるのが、品位ある退き方を見せてくれた団塊の世代であってほしいと願うのは自分だけではないだろう。


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目次
第一章 若い世代の活力を甦らせるために
――団塊世代よ「悠久の日本国民」の声を聞け!

[1.下山するなら自力で下りろ!]
/日本は本当に下り坂に入ったのか?
/若い世代に負担をかけるな、登る人の邪魔をするな
/経済力の低下、その先にくる本当の悲劇とは?
/自力で下りられる財力はあるはずだ

[2.多数派は自ら決断せよ!]
/世代間の闘争は起きるか
/「悠久の日本国民」の声なき声は反映されない
/「ティーパーティ」と「ウォール街を占拠せよ」
/政治的思惑と打算で動く日本政治
/「市民」不在の「市民運動」
/TPP問題、東電問題への対応
/「都会vs地方」という論点も曖昧に
/「大阪維新の会」のアジェンダを見よ
/真っ先に超高齢社会になる日本が見本に
/まず世代間の不利益の再分配が必要

[3.決断が遅れると、痛みはどんどん大きくなる]
/高齢者の医療費をどこまで負担するのか
/最終局面で決断したJALのOB
/NTTが負けた年金額の削減問題/裁判所の判断は絶対ではない
/既得権も、もとをたどれば取得権
/一律カットでは改革にならない
/「みんなで一緒に」の建前は吹っ飛ぶ
/心ある「上の世代」の人々へ

第二章 塩漬け預金を社会に還元する方法
──年金と医療の見直しで上の世代のストックを吐き出させる

[4.国のお金は自分たちの税金だ!]
/なぜ世代間賦課方式になったのか?
/社会保険料も税金も国民のポケットから出ている
/負担を上げて、給付を下げるしかない
/AIJ事件も根っこにあるのは、公的年金の制度破綻
/国のお金は納税者のお金
/年金の再分配では国はエージェントにすぎない

[5.手持ちのストックで老後を過ごしてもらう]
/どうやって所得移転をはかるか
/資産課税は有効か?
/資産や所得のある人には年金の支払いをストップする
/死は避けられない。ならばどう死ぬか

[6.「あるだけ解散」と「長生き保険」創設で年金問題は一気に解決!]
/もそも年金保険とは何なのか
/最低限の保障を公的年金で
/既存の公的年金は「あるだけ解散」でご破算にする
/よくある反論は反論になっていない
/憲法違反論もナンセンス
/長生き保険で、給付も負担も劇的に減る
/理想は目的税としての「社会保障税」

[7.ふくらむ医療費をどう抑えるか]
/どこまで保険でカバーすべきか
/すべて自由診療か、自由診療は一切禁止か
/医療費の上限は自分で決められるべき
/高齢者の一割負担は是か非か
/団塊の世代以降は「もらうに値しない」
/ 大人は年齢に関係なく三割自己負担にせよ
/長生きし、年を取ること自体は、もはやかわいそうでも不幸でもない

第三章 日本人に合った税体系と働き方
──労働市場改革で若年層へ雇用と所得を移転する

[8.より公正な税金のあり方とは?]
/税による再分配には限界がある
/借金財政もじつは若者からの搾取
/寄付を活用できないか
/「たとえば貧困対策に使われるなら納得」

[9.定年廃止、解雇規制緩和、完全能力給の導入]
/定年制は年齢による差別だ
/労働市場の三位一体改革で若年層雇用の再生を
/日本的雇用は経済合理性から生まれた
/35歳を過ぎたらあとは落ちるばかり!?
/知的労働的な仕事が増える時代の雇われ方
/厚労省と文科省の仕事を民間企業が代行してきた
/労働者の生産性に応じて公平に賃金を支払う責任
/生産性を省みないもう一つの不幸……人材流出

[10.働き者の日本人は“生涯現役”が理想]
/仕事が最大のエンターテイメント
/関係性を断ち切られることは苦痛でしかない
/ソーシャルネットワークが「関係性」を強化した
/カイシャ延命政策よりNPOなどのサブコミュニティ支援を
/「関係性」は働くことで維持される
/幸せな老人だから税金を払う

第四章 グローバル時代の人材育成──
大学再生と格差解消のための教育システム

[11.大学を職業訓練校へ]
/学生に対してまともな教育ができていない
/オリンピアンとジョギング好きを一緒にするな
/そもそもビジネススクール、ロースクールは高等職業訓練校
/企業が教育にお金をかけなくなってきた
/文系の学生には必ず簿記の勉強を
/英語の入試も大学の評価もTOEICで一本化
/プロフェッショナルとアカデミックの垣根が低い米国
/司法試験ってどうよ?
/実学、プロフェッショナルスクールで真に一流の先生とは?
/教えるプロを育てる

[12.格差固定・貧困の連鎖を断ち切るために]
/正社員の枠から漏れた人の「ハンディキャップ」とは
/収入の差が子どもの世代まで受け継がれる
/教育バウチャーで格差解消
/単なるバラマキではなく、評価と一体に

[13.教育サービスには競争原理を]
/アジアの人たち、コンピュータとの競争
/格差拡大のもう一つの現代的な要因
/実質的「機会の平等」……何を規制し何を緩和するのか
/職業訓練能力でレーティングを
/東大が改革の先頭に立つべし!

第五章 日本の強みを生かした成長戦略
──医療とエネルギー分野でイノベーションを

[14.超高齢社会にフォーカスせよ!]
/高齢医療、福祉、介護の分野にイノベーション!
/日本得意のすり合わせ技術の世界なのに……
/遠隔医療がつくる新しい産業
/人間の可能性を信じるか、信じないか
/過疎化+人口減が先行する地方でシミュレーション
/復興特区と「なんちゃって規制緩和」
/「抜けている」リーダーの決断力

[15.電力不足がイノベーションを生む]
/オイルショックと日本の「エネルギー革命」
/通信イノベーションの歴史と電力産業の未来
/電力自由化からスマートグリッドへ
/最新の技術が最も信頼性が高くなる
/エネルギー分野でアドバンテージがある日本
/電力会社こそ市場改革、産業イノベーションの旗手となれ!

[16.グローバル競争に打ち勝つために]
/ソフト面の売り込みが課題
/経営トップの多国籍化が必須
/GDP(国内総生産)からGNI(国民総所得)へ
/九割以上がアウェイの市場で戦う
/本社自体がグローバル化しなければ戦えない
/「日本生まれの企業は日本の会社」
/国内向けB2Bでも稼げなくなる
/ケイパビリティとシェアード・バリュー

第六章 リアル革命のススメ
──近未来、いまの三〇代がこの国の覇権を握るために

[17.日本的革命の論理とタイミングを理解せよ]
/まだ十分に悪くなっていない日本!?
/5年後ぐらいが一つの分水嶺
/ムラ人たちの革命はいつも曖昧
/イデオロギーで革命は起きない
/「リアル未来主義」を武器に、弁証法的に身をかわせ!
/科学の神話で命を落とす人を減らすために

[18.世代の戦闘能力を高めよ!]
/親子の対話が一つの鍵
/「名誉革命のススメ」をしつこく繰り返せ!
/革命の練習は職場から
/世代的な団結を強めることの重要性
/固有名詞と集合名詞の使い分け

[19.選挙に行くことはとっても大事]
/政治家はとても選挙の結果に敏感
/こういう政治家には投票するな!
/最高裁判所裁判官国民審査で×をつけることの重要性
/若い世代の投票行動が新しい政治構造を生み出す

[20.若い革命家が老練な抵抗勢力に足をすくわれないために]
/上の世代の悪魔のささやき
/マスコミに加わる宿命的なバイアス
/インフレタックス論vs財政再建論
/改革派が内部分裂を起こしやすい理由
/名声、権力、お金のすべてを手に入れてはいけない
/課題最先進国ニッポンの30代よ、世界のさきがけとなれ!
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