2014年1月10日金曜日

旅行の手配と建築設計

中華新年が近づいてきた。

100を超える建築体験を10日ほどで行った昨年の夏以降。ある種の燃え尽き症候群に陥っていたと思っていたが、どうも心の奥のワクワク感がまたムクムクを起き上がってきたようである。

そんな訳で昨年、会津若松で大変な思いをしたのを肝に銘じ、日本での予定を整理し時間を確保し、巡礼先の候補地を探し始める。

そうして徐々に旅行の行程を決めていく中で、ふと思う。
旅行の段取りは極めて建築の設計作業に似ていると。

様々な要因を同時に考慮しつつ、その中でもプライオリティを持って決定していく。一箇所か二箇所だけの立ち寄りでその周辺に興味深いものがあればついでにというような、なんともほのぼのした旅行ならなんてことは無いだろうが、できるだけ濃密にストイックにと考えていくと、これはなかなか簡単ではない。

まずは、大体どこら辺に行くのかを絞り込まないといけない。一番最初は可能性が無限である。北海道にもいけるだろうし、九州という手もあるだろう。まず調べるのは、そこまで行くのにどのような方法があるのか?そこから選ぶのは大変なことであるが、決断しないといけない。

格安航空券ならどの様な値段でいけるのか?
その飛行機が到着する県の周辺ではどのようなスポットがあるのか?

そこで活躍するのが、自ら編集しているマップ。その中にマッピングされているのは以下の目的地達

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建築 歴史的建造物から現代建築まで。もちろんこれは欠かせない目的地。

寺社仏閣 現在では建築を凌駕するほどの魅力となった目的地。むしろ古い寺社を超えるくらいの力強い建築がないのが嘆かわしいと言うべきか

温泉 寺社仏閣と同様に、遥か古代の日本人と同じ空間体験をできるという意味で、長く愛されてきた温泉は流石に身体に沁みるものがある。立ち寄りでも出来るだけ違う温泉を体験する。

城 地形の建築化。現代では見えにくくなった、日本独特の地形と建築の関係性を感じる。

庭園 禅だけでなく、日本人が歴史の中でどう自然と付き合い、どう制御し、どう建築空間の中に挿入してきたかを身体で感じる。

繁華街 グローバル化を成し遂げた後の世界で、地方都市がどのように生き残り、どのように廃れていっているのか、その生の姿を見る目的地。 
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大体これらのスポットが常時アップデートされながらマップの中でその色を変えられるのを待っている。

これらの手がかりを元に、フックする目的地を中心に徐々に行き先を絞り込んでいく。その後、日の出と日の入りの時間を調べ、目的地の数から一日どれくらい回れるか?次の日の日程を考えてどこらへんに宿泊すべきか?などを検討し始める。

楽しむタイプの宿泊では決して無いので、値段重視であるが、できるだけ街の雰囲気を味わえるところを考慮しつつ、「宿で美味しいご飯を・・・」とはいかないので、できれば近くに雰囲気の良い地元の美味しいものを出してくれる、安い飲み屋でもあればとリサーチする。そして翌日の朝は日の出前には出発するようになるので、宿の提供する朝7時からの朝食はつけない宿泊プランを選択する。

こうして日ごとの大体のエリアを決め、宿泊のスポット、街の中心地か温泉街を決め、徐々にそれぞれのプランの骨格を決定していく。

次はプランを元にどこでレンタカーを借りてどこで返すか?無駄を無くす為に一方通行で乗り捨てがいいのか、もしくは違うルートを通ってぐるっと回ってくるのがいいのか、乗り捨てだけで値段がグンと高くなるが、ぐるっと回ってくるとかなり無駄を走ることになる。それぞれの高速代とガソリン代とレンタカー代。それに時間と体力の無駄を加味して考慮する。

ここまで来るのに登場するパラメーターはすでにかなりの数になり、その中で決める事は結構難しい。しかし悩んでいて決めれなく時間だけ過ぎていけば、飛行機も宿泊の値段が上がっていってしまう。

そんな訳で大体のルートを幾つか決めて、そのシナリオにそった交通機関とレンタカーを調べる。今回上がっていたのは、東京から宮崎に飛んで、宮崎、大分、福岡と走って、福岡から名古屋へと飛ぶルート。成田から米子に飛んで、倉吉、米子、松江、出雲、益田、津和野、下関、北九州、福岡ときて福岡から名古屋へ戻るルート。もう一つは成田から米子に飛んで、出雲、益田、津和野から津山に戻って米子へ戻るルート。

その中で心配なのが天候。昨年会津若松で酷い目にあったので、行く先の雪の情報、天気の状況には相当敏感になり、昨年の情報や出現率調べても、どうも良く分からない。行き先が市街地にあればいいが、山の上にある神社などになると、調べてみても写真では3月でも雪があったりとなかなか予測がつきにくい。

そんなこんなで困ったと思って雪の心配が少ない九州に心が傾くが、やはり式年遷宮後の出雲は捨てがたく山陰決行する事に。

そうなると更に一つ一つ細かくシュミレーションしていき、実現可能性を確認していく。飛行機が何時に到着してレンタカーを何時から借りて、どのルートで回っていくか。目的地の数が数なので、それぞれの美術館や庭園の開館時間、休館日、入館料などを調べていく。神社は安心だが寺も参観時間が決められているので忘れずにチェックする。神社も油断していると閉められるところもあるので、一応チェック。

早朝の早い時間にできるだけ中に入らなくてよい建築、神社などを回るようにして、美術館などが開館する9時以降に建築へ足を運ぶようにルートを設定する。温泉でも立ち寄り湯は昼の時間に限られている事が多く、また事前連絡が必要なところもあるのでこれもチェック。建築に関しては見学の申し込みが必要なところもあるので、それぞれにメールをする。

そして徐々に旅の「カタチ」が見えてくる。

今度はそれぞれのスポット間での運転の時間をNavitimeとGoogle Mapの二つでチェックし、現実味のあるルートかどうか、参観時間を考えて行けるのかどうかを検討する。それを元にそれぞれのスポットをカレンダーの上に時系列に並べていく。

日の出から日の入りまで埋まってきたら今度は体力と明日の予定を考えて、温泉地か中心地での宿泊の再度の絞込み。駐車場があるか別料金かなどを踏まえて、それぞれの料金をエクセルで計算し予算がどれくらいになるかを調べながら、徐々に決めていく。

その後各地方の自治体や観光案内所にメールして、地元に住まう人で無いと分からない雪の状況や服装などのアドバイスを聞き、事前連絡の必要な施設にメールをする。

ここまでくるとある程度の仕事量である。

そして大体シュミレーションでいけると判断できたら飛行機のチケットを購入。レンタカーを予約。宿泊施設を予約。さらに地方の美味しいお店をチェックしてマップに入れておく。繁華街と呼ばれるところもチェックして夜に時間と元気があればどこに繰り出せばいいかもマップに入れておく。寂れた地方の居心地の良さそうな居酒屋でもフラッと入り、常連と思われる地元の人と、他愛もない話をしながらうまい酒を飲めればこの上ない。

更にスケジュールを詰めていき、建築物はやはり日の下で見ないといけない宿命のお陰で、できるだけ移動の時間を日の出ている時間に当てないようにと、疲れているだろうが夕方から夜間にかけて長距離の移動を行うようにスケジュールする。その時でも、体力と危険がないか判断し、どこに時間と体力の余裕を入れておくかも検討する。

こうして予算が大体見えてくると各食事時にどれくらいを使えるのかが把握でき、上記の様に居酒屋で地場の料理をいただけるかもしれないし、懐具合によってはコンビニかどこかの定食で済ませる事になる。

数が増えてくるとバカにならないのが入館料や参観料。それに合わせて駐車場代もふんだくろうとする不届きな寺もあるので困ったものである。ガソリン代と高速代も計算し、それほど外れない予算表とスケジュールと睨めっこをしながら、後は予想不可能な天候にも恵まれて、予定通り事故無く回るのを祈るだけ。

妻には「かなり過酷な行程になるので、正直言って足手まといになるから着いてこないでくれ」と言うと、笑って「自分は東京でゆっくりするので、自由に行ってくれば」と送り出される。

出来上がった行程表と予算表を見ていると、本当に建築の設計に似ていると思わずにいられない。機能、周辺環境、自然採光、予算、素材、構造、法規、設備、経済性、クライアントの要望などなどあげたらきりが無いほどの多くの要因を同時に考慮して、その中で決断を繰り返していく。

その中で徐々に、徐々に建築の「カタチ」が見えてくる。形態なんて、最初からあるはずもなく、複雑に絡み合う様々な要因を、自分達の思考にそって整理していくなかで、少しずつ見えてくるものである。

起こるであろう問題の為に、どこに余裕を持たせておくのか。すべてピチピチの寸法で設計するのではなく、どこが外的要因に影響される余地があるのか、そういう見えない要因も考慮して設計しておく。それは旅も同じ。これは簡単ではないし、誰でもできるものではない。

シュミレーションを繰り返し、現実的な行程になればなるほど、カレンダーの予定表もより綺麗にオーガナイズされていく。より自然な形に整っていく。徐々に整理されていき、詳細が見えてくる平面図のようである。

そのカレンダーの奥で待っていく様々な風景を想像し、少しだけ気分を良くして本来の仕事である建築の設計に戻りながらも、次は次は暖かい時期になんとしても東北、北陸を巡りたいものだと思いを馳せる事にする。

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