直木賞作家となった早稲田出身の朝井リョウによる青春小説の映画化であるが、マイケル・ムーアの「エレファント」を思わせるような、多視点の描写で物語が進んでいく。繰り返し同じ時間が別の人間の視点から描かれ、徐々にその事象の本質が見えてくるような感じ。
勉強も運動もでき、イケメンでクラスの人気者である生徒がある日突然部活を辞めることで、それまで絶妙なバランスで保たれていた学校内のヒエラルキーや人間関係がガタガタと音を立てて動き出す。そんな誰もが登場人物の誰かに自分を投影できるような淡い日本の高校時代を描き出す非常に良い一作。
登場する俳優も、今をときめく若手俳優ばかり。そしてその誰もが人気先行ではなく、しっかりと演技に実がある。あまり主演ぽくなく描かれる主演の神木隆之介はじめ、「ごちそうさん」で無骨な父親を演じる東出昌大(ひがしでまさひろ)、「あまちゃん」で埼玉出身のリーダーを演じた松岡茉優(まつおかまゆ)はクラスでイケてる女子役。クラスで一番の美人で一番の当事者の彼女役には山本美月。こちらもあまり重要っぽくは描かれないが、ヒロイン役にはおなじく「あまちゃん」の橋本愛。
などなど、思えば高校時代は誰もがそれぞれの個性を持って、役割を持って学校生活が成り立っていたんだと実に良く思わせてくれる内容。大人ぶっていても誰もが皆まだ子供で、それだけに繊細で揺れ動く。
タイトルでもこの物語の中心に据えられるべき「桐島」は登場することなく、中心が空虚のまま物語が終結する。決して都会でもなく、そして田舎過ぎもしないなんとも素晴らしいその雰囲気。撮影は「高知中央高等学校」が行われたらしく、恐らく高知市はほどよいコミュニティを残す数少ない幸福な地方都市なのだろうと勝手に想像を膨らませる。
主題歌である高橋優「陽はまた昇る」もまた映像によくあって、雰囲気を守り立てるのに十分な役割と果たしている。
日本人であれば、ほとんどが共有できる青春の一ページ。誰もが主人公で、誰もが輝いていたあの時代。こういう物語も自分で描いてみたいと思う物語に近いのだろうと思いながら画面を閉じる事にする。
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スタッフ
監督 吉田大八
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キャスト
神木隆之介 前田涼也
橋本愛東 原かすみ
大後寿々花 沢島亜矢
前野朋哉 武文
岩井秀人
清水くるみ 宮部実果
藤井武美 詩織
山本美月 梨紗
松岡茉優 沙奈
落合モトキ 竜汰
浅香航 大友弘
太賀 風助
東出昌大 菊池宏樹
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作品データ
製作年 2012年
製作国 日本
配給 ショウゲート
上映時間103分
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