2013年2月12日火曜日

雪国をなめたらあかん


今年の大河ドラマ「八重の桜」に刺激を受けたわけではなく、天地明察にも出てくるような藩祖・保科正之の影響のもと独特の文化を培った雪深き会津の地を前々から見てみたかったが中々機会に恵まれず、やや強行ではあるが決行した会津若松への旅。

リトル東京化し、ゲニウスロキを失い何物でもなくなってしまった数多の地方都市に並ぶことなく、古き良き街並みを残す数少ない街・会津。その土地独特の気候や地形に対して、長き時間をかけて適応され作り上げられて行った風景。その裏に見え隠れするその土地に暮らす人々の自然に対する眼差しと知恵。

歳を重ねれば重ねるほどそういうものに惹かれるようになり、少ない時間を費やして足を運ぶ先として比べても、薄っぺらい現代建築などでは到底及ばない圧倒的な期待感を持ってそこにいてくれる、そんな数少ない魅力ある街の一つ。

「八重の桜」でも描かれるように、幕末に会津では藩主・松平容保(まつだいらかたもり)が、徳川宗家に対して頑なまでに忠義を尽くすという藩訓を守り通し、時代の流れに抵抗しながら、戊辰戦争の一舞台としてこの地を歴史に名を残させることになる。

期待に胸を膨らませるというのはこういうことだと思いながら、午前で終えた打ち合わせから、予約をいれておいた地域一安いレンタカー屋へと足を運ぶ。

天気予報ではその日の夜半から明日にかけて東北では雪になる可能性があるとのことだったので、レンタカー屋で天気予報と会津地方に向かう予定を伝えるが、まずまったく天気予報を把握ししていないことに驚かされる。

次に万が一ということもあるので、スタッドレスもしくはチェーンの貸し出しについて尋ねるが、「そのような事はしておりません。あくまでも車の貸し出しなのであとはお客様自身で・・・」と、考えられないような返答が。

「誰もそれを望んでないが、もし雪で動けなくなったらどのような対応を取ればいいのか?」と聞くと、まったく分かってないようなバイトのおねーちゃんが「早めに連絡をいただければ、延長という形にできますので・・・」といけしゃーしゃーと言ってくる。空いた口が塞がらないとはこのことだが、嫌な予感は感じつつ、諦めて車へ。

「あれ、カーナビお願いしていたはずなのに・・・」とキョロキョロとしていると、如何にも頼りなさげに吸盤でくっつけられた外付けカーナビがハンドルの前方に設置されていて、「これになってしまうんですよー」と本当に申し訳ないと思っているのかどうかも分からない言い方で説明される。

心配しながらも行き先を設定し車を発信させる。信号で止まって再度発信するときの加速でいきなり「ゴロゴロッ」とカーナビが外れ、足元に落ちていき、コードにハンドルを取られてあわやの状態に。

「なんなんだこれは!」と思いながらも、運転を急に止めることはできないので、手を伸ばしてナビをとりあげ、腿の上においてそこからの指示にそって運転を続ける。赤信号で止まった間に、もう一度吸盤をこれでもかというくらいに押し付けて、これで大丈夫だろうと運転再開。しかし思ったよりも近かった高速の入り口の坂道で、あっさりと吸盤がまた「ポロッ」と外れて、奈落の底に落ちていくナビ。取られそうになるハンドル必死に確保する。

高速に入ってしまったので、止まることもできず、無理な体勢でナビを取り上げ、またもや腿の上からの指示に従い、なんとか一つ目のサービスエリアに車を滑り込ませる。レンタカー屋に電話して、危うく交通事故をおこすところだったと怒りをぶつけるが、「いつもお客さんにお貸ししているものなんですけど・・・すいません。」と、本当に申し訳なく思っているのかどうか、本当に適当な対応に望みも切れて、どうにか対策をと売店に足を運んで事情を説明し、売り子のおばちゃんかにテープを借りる相談をする。

「ガムテープ」は吸着力が弱いから・・・ということで、オススメの両面テープを借りることに。ハサミも一緒に借りて、車に戻って応急手術。ご丁寧にコードまでテープでくくりつけ、術前術後の証拠写真も収めて、これで二度と落ちることは無いだろうとテープとハサミを売店に返しにいくと、「眠気覚ましに」とカリカリ梅をサービスしてもらう。

東北道を飛ばして、郡山を左に折れて、阿武隈高地をいくつかのトンネルで超えると目の前に広がる雪景色。遥かに見えるのは奥羽山脈を形作る磐梯山などの山々。「ドノーマルのタイヤで大丈夫かな・・・」と不安が芽生えながらも、除雪されている高速の道を速度を緩めながら会津若松入り。

高速よりもよっぽど雪の残る下道にややビビリながらも、轍に沿って危なっかしくもなんとか鶴ヶ城に向かうが、轍から外れると雪の山で、スタッドレス仕様で無い車には、ちょっとのターンも一苦労。そんな訳で「市内で郷土料理でも・・・」と思っていた夕食も、狙っていたお店の駐車場に車を入れるのすらかなわず、かえって冷や汗をかくだけだと諦めてコンビニ飯となり、予約していた旅館までちょっとの坂道に完全にビビリながら車をすすめることになる。

この時点で雪国の恐怖は十分味わったので、旅館のフロントで明日の予定地を伝えて、「ノーマルタイヤ」の車で行けるかどうかを尋ねると、「とてもじゃないが無理ですね」というあっさりとした答え。「市内の車が多く通る道なら雪が溶けているからなんとかなるだろうけど、少し街から離れて山のほうにいけば、雪だらけでスタッドレスをはいてても厳しいだろう」という。

「そんなに厳しいのだろうか・・・」とやや疑いながら、天気予報に反してまだ振り出さない空模様を見ながら床につく。

目覚めてカーテンを引いてみると、素人には「積もったのか?」と思うくらいのかすかに降り続ける雪。準備を整えて、再度フロントで聞くと、やはり「市内の主要な道なら普通のタイヤでも行けるだろうけど、高速は規制がかかっているかも・・・」とのことで、雪道での運転のいろはを教えてもらい、車の中へ。

フロントガラスとサイドミラーに降り積もった雪を掃いてもらって、恐る恐る車を進める。旅館の入り口の坂道を一気に上るが、右に行くか左に行くか一瞬迷って止まると、タイヤは完全に雪をかんでしまって空回りし、ズルズルと後ろに下がっていく。焦って踏めば踏むほど下がっていく車を諦めて、平坦なところまでとりあえずコントロールする。

この時点で完全に考えが甘かったことを理解し、とにかく無事にこの土地をでることに目標をシフトして今度は一気に駆け上がり左にハンドルを切る。温泉地なので市内より高い場所にあり、緩やかだが下っている道に積もる雪に乗り上げてはハンドルを取られ、止まろうと思って踏むブレーキも「ガガガ」と滑ってしまってコントロールを失いながら、徐々に状況の深刻さを理解する。

それでも周囲に車がいない状況だから良かったが、市内に入ると、車が通り除雪されている道とそうでないところがあることを理解し、これに行かなければこの地に来た意味をなくしてしまうというさざえ堂にとりあえず向かって車を進める。

やや中心地より離れているので道に積もる雪の量も多くなり、駐車場に入るターンができず、ゆるい坂道で止まることもできずにいるのを、地元民の車は危険を察知し、さっさと迂回して抜いていく。途方にくれながらも、なんとか平坦なところでターンを決めて、強引に駐車場まで車を入れる。戻ってきたときに駐車場から脱出できるかどうか心配しながらも、通気性抜群の靴で靴下をびしゃびしゃにしながらさざえ堂に向かう。

参道も雪に埋もれ、明らかに危険な坂道を眺め途方にくれて、近くのお土産屋のドアを叩いて中のおじさんに事情を説明し、無事にたどり着けるか尋ねてみると、「一本奥の道ならなんとかいけるかもしれないが、今度は桜の季節に来てくなんしょ。」とこんなところで会津弁に遭遇し、意を決して坂道を上がっていく。「上にいっても、まだ誰も来てないから中には入れないよ。」というとおり、外観だけを見るだけに終わり、さっさと車に戻ってこの地を脱出しようと心に決めて坂道を降りていくが、ツルツルとすべって何度も転んで、お尻を濡らすことになる。

駐車場にもどって、なんとか車を脱出させて目指すは会津若松インター。途中の坂道で完全に止まれなくて前の車にあわやぶつかりそうになり、赤信号で止まろうとしても止まりきれずに信号の中に入ってしまっては発進したりと、雪国の運転の厳しさを身をもって体験し、すっかり青くなって高速手前に。

これは何かの規制がかかっているの違いない。というか、この状況ならば高速の入り口の坂道は上がれっこ無いと思い、手前のガソリンスタンドにつっこんで、事情を説明して、高速の規制について聞いてみるが、分からないというのでスマホで問い合わせることに。見事に磐越自動車道は80キロでチェーン規制という。

「チェーンは売っているか?」とスタンドで尋ねても、「いやー、無いですね。」との返答。そりゃそうだろうな・・・と思っていると、付き合いのあるオートバックスに問い合わせてみますよと、なんとも優しい店員さん。「在庫が無いらしいが、信号二つ先のイエローハットにあるようですんで、その車使ってもらっていいですよー。」と徐々にその店員が天使に見えてくるが、「開店が10時だっていうんで、ちょっと待っててください。」とのことで、邪魔にならない場所に車を移動させて店内で待つことに。

素泊まりにしてできるだけ朝早くから寺社を回ろうとしていた予定が裏目に出て、この時点でまだ8時過ぎ・・・コーヒー飲みながら他の仕事の手配の為に、何本か電話をかけ終わってもまだ9時前。「そういえば、チェーンっていくらするんだろう・・・」と思いつき、ネットで検索すると「4万円越えるやつから、2万円前後のものも・・・」なんて出てきて、チェーン規制って駆動輪だけでいいのか、それとも4本全部巻かなきゃいけないのか?などと、雪国生活に慣れてないために完全に焦りだし、例のイエローハットに電話して問い合わせ。

優しい感じの副店長が対応してくれて、事情を説明すると、開店前だけど対応してくれるから今から来ていいとのこと。ガソリンスタンドの店員に事情を伝え、「車使ってください!」といわれるが、先ほどの止まらないブレーキのトラウマが過ぎり、歩いていくことに。

ツルツルすべる氷道を踏みしめ、徒歩で10分ほどのイエローハットに。回転準備中のスタッフの方に事情を説明し、中に入れてもらい、電話で対応してくれた副店長につれられてチェーン売り場の前に。2万3千円のものと、1万3千円のものがあり、機能的にはあまり変わりは無いというので、もちろん安いほうでお願いする。結局駆動輪に巻けばいいということで、ちゃんと箱には2本入っているのを確認して、お会計。とんだ出費になってしまったが、雪国をなめた授業料だと理解して、結構な重量の箱を抱えて先ほど来た道を滑りながら帰っていく。

チェーンをつけるなんて、大学生時代以来のことだなと思いながら、手伝ってほしいオーラを出しつつ一人で始めるが、どうにも給油の客が続くらしく、二人いる店員さんはなかなか気づいてくれず、しょうがないので説明書を片手に車を降りてはチェーンを引っ張ってなどと10分ほどやってみるが、一向にはまる様子のないチェーン。

たまりかねて、一人の店員さんに「申し訳ないですが、手伝ってくれますか?」とお願いすると、客足も止まったようで二人して一緒に必死に手伝ってくれる。「自分達もチェーンなんてはめたこと無いですからねぇ」、と言いながら地面にひざをつきながら手伝ってくれる如何にも昔は悪かったぞという風体の店員さんの姿をみて、この時点で既にココロも満タンししてもらった気になってしまう。3人で汗をかきながら「あと少しなんだけどね」、などと前にだしたり後ろに引いたりとを繰り返すこと20分、やっと一本目がはまる。コツをつかんだ店員さんはその勢いで二本目もはめてくれて、「ガソリン入れてきますよね?」とさわやかに言われると、お礼のタイミングも逃しそうになる。

給油を終えて仕事に戻る彼らを捕まえ、暖かい缶コーヒーを渡しながらお礼を伝え、名前を覚えてスタンドを後にし向かうは高速入り口。そこまでたどり着くまでに、チェーンが無かったら何度事故っていたか・・・と思うような氷道を進み、チェーン購入が間違い出なかったことを確信するが、高速に上ると確かに80キロのチェーン規制がかかって入るが、道自体に雪は残っていない。

それでも外は吹雪なのできっとすべるところも出てくるはずだと、「チェーンつけて普通の道で50キロ以上出すと、チェーンが切れて危険なので必ず50キロを守ってください」とイエローハットの副店長にきつく言われていたので、頑なにその言葉を守り左斜線を走っていくと、スタッドレスをはいた地元の車が明らかに100キロ近く出してビュンビュン抜いていく。その姿を見て、「これは返って危険なのでは・・・」と不安になり、早速一つ目のサービスエリアに車を滑り込ませ、またNexco東日本に電話。

道に雪が無い以上、チェーンは外して通常走行した方が安全なのでは?

チェーン規制がかかっているのは、磐越道から東北道に合流する郡山まで、東北道は規制がかかっていないというが、それなら東北道で走っている車は更に高速で走っていることになり、この50キロ走行だと逆に危険度が増すのでは?

それなら、どのタイミングでチェーンを外すべきか?郡山手前で外したらチェーン規制に引っかかるのか?それとも東北道に入ってすぐに外せる場所はあるのか?

などなど、完全に雪国素人の質問を投げかけ、結局東北道合流口から200mにチェーン着脱場所があるので、そのままで言ってくださいという言葉に従うことにする。

油断して60キロくらいになると「ガクガクブルブル」とハンドルが踊りだし、いかんいかんとスピードを緩めて後続車に抜いてもらい、トンネル内も逆に危ないなと思いながらも、浸すらゆっくりと走行し、通常よりも何倍かけて見えてくる東北道合流口。

200mだからすぐそばだろう、という想いとは裏腹に、結局着脱場所が見つからず、8キロくらい先にやっと見つけるチェーン着脱レーン。生憎やんでいた雪もまた強く振り出し外は吹雪模様。それでも外さないといけないという思いで、膝もびしゃびしゃになりながら、前に出したり、後ろに戻したりとあれこれやるば、どうしてもワンタッチというくせにまったく外れないホックに冷や汗をかきながら奮闘20分。「カチッ」と音と共に、バサッと外れるチェーン。奮闘する間にチェーンのカギに突き刺さられたダウンジャケットから出てくるダウンの白い羽が飛び散る中での一人ガッツポーズ。その勢いにのって、反対側も5分ほどして外れることができ、雪解けのビチャビチャの道に並べて折りたたみ、二度と見たくないと思いながらトランク中に詰め込む。

「滑りはしないだろうな・・・」と恐る恐る合流する本線。そしてスピードを80キロへ。しっかりと路面を捕まえている様子のタイヤを感じ、やはり素人が雪国をなめたらとんでもないことになると反省しつつ、転んでただで起きるのは男が廃ると、予定変更で栃木の隈建築へと車を向かわせる雪の東北道。





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