2014年1月24日金曜日

「斜陽」 太宰治 1947 ★★★


漱石にしても太宰にしても、描くことはその時代時代に目新しい事象ではなく、人間の持つ本質的な感情を描き出すから、何十年経っても決して古びることなく読めるのだと感心する。

まさに戦後と呼べる1947年に書かれた、没落にせよ貴族が残っていた時代の物語。

異なる時代の太宰自身が投影されたという4人の登場人物の設定ということだが、何と言っても冒頭から不思議な雰囲気を醸し出す母のなんとも上品なしぐさに、全てが大衆化に向かう現代には無いものを感じざるを得られない。

貴族という、ある種の下部構造に支えられる階層が社会の中にあることで、それぞれの役割分担が深層心理の中で共有されていた時代。生活の保障の上に成り立つ文化への深い造詣など、生きる事を心配しなくて良い身分ならではの日常だが、社会が変化し、その基盤も変化する変動期において、人々がどうリアクションし、市井の大衆であればあるほど、軽やかにその変化に対応していくのに対して、高貴な人々はそれぞれが新たなる道を見つけられずに没落していく。

まさに一日の終わりに訪れる斜陽の様に。

そして現代の日本に訪れているのも、社会の根本を変えないといけないほどの変化の波。それが外からも内からも沸き起こっているのに対し、大衆は敏感に変化へと向かいつつあるにも関わらず、現代の貴族達はやはり変化を拒み、今を継続しようと躍起になる日々。

そこに訪れるのは同じような斜陽なのか、それとも終わる事の無い夕闇なのかは誰にも分からない。

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