インターネットがインフラ・レベルとして生活に入り込むようになった現代の情報社会では、どんな映画を見る時にも、既に前情報としてどの映画祭で賞を受賞したということを知っていることになる。
それらの情報から、これはどこで評価を得た映画なんだ、どの映画祭がどのような作品に賞を与える傾向があるか大体イメージを持ち合わせていると、見る前にこの作品はやや芸術系で派手さは無いが高い評価をうけた良い映画なんだという先入観を持って見ることとなる。
それが情報社会の宿命であり、それらの偏見のなか、自分なりの受け取り方をできるかどうか、自分の視点で判断ができるかが極めて重要になってくる。そんなプレッシャーを感じなければいけないほど、多方面から絶賛されている一作。
原題の「Beasts of the Southern Wild」。これがデビュー作という29歳の新人監督ベン・ザイトリンが、若かりしころからこのチャンスを掴み取るまでに温めつくしてきたと思えるアイデア、想いが詰まった濃厚な映像作品となっている。圧巻は過酷な環境のなか成長していく子供の心の中で育つその野性の象徴として描かれる獣たち。一体どうやって撮影したのか?と思わずにいられないその迫力。
舞台は原住民文化が多く残るといわれるルイジアナ州。居住が許されない川沿いに独自のコミュニティを作り人種も関係なく住み着く人々。そのコミュニティはバスタブと呼ばれ、コミュニティの中で教育を行い、自足自給的な生活を営む。
そのバスタブの最大の脅威は、突然襲ってくる大規模な嵐。巨大な嵐は川の水を氾濫させ、工業地域へと氾濫が押し寄せないように政府によって作られた堤防が水の流れをせき止め、バスタブのある地域の多くは、水の中へと沈むことになる。
そんな話を見ていると、かつて訪れたデンマークの首都コペンハーゲンで現地の建築家に案内してもらった政府公認の自治区、クリスチャニア(Christiania)を思い出す。税金を支払うことを拒否したヒッピー達が集い独自のルールを作り出して暮らしている地区。
案内してくれた建築家によると、そのコミュニティに入るためにはコミュニティの中の誰かの紹介がなければいけなく、一度コミュニティに入ると、自治会によって割り振られて仕事をして、食事などは給付されるという。そんな訳で、現代社会から敢えて隔絶した理想郷のイメージが重なるのか知らないが、世界中の有名アーティストがここでコンサートを開くことを願う人も多いという。
そんな話を思い出す現代の近代社会に属さない人々の話。物理的距離はそんなに遠くはないければ、自分達の乗っているルールから離れているだけで、異端としての距離が現れて、急に「あちらの世界」的な見え方がしてくるから不思議である。
世界がフラットになった情報社会。何でも目新しくはなく、なんでも聞いたことがある、何でも知っていて、何でも調べればすぐ出てくる。そんな中でも新しい物語を作らないといけない、見つけないといけない。そうなればなるほど、どんどん重箱の隅を突き、こんな人たちもいたんだ、こんな生活まだあったんだ、という風にネットではたどり着くことの出来なかった場所まで世界を広げ、より透明へしていく。
しかし、それは今まで知られてなかったことを、また一つネットのデータベースに加入させて以上にはならず、映画として何かしら新たなるブレイク・スルーをもら足したかといえばそうともいえない。
だから難しい。誰もが知ってる時代だからこそ、作り手の苦難が強く見える一作。それだけ悩み、現代を考慮し、それでも映像の力を信じたつくりでの想いがにじむ一作。
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第28回サンダンス国際映画祭グランプリ 最優秀撮影賞受賞
第65回カンヌ国際映画祭カメラドール
第85回米アカデミー賞主演女優賞、作品賞、監督賞、脚色賞ノミネート
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スタッフ
監督 ベン・ザイトリン
脚本 ベン・ザイトリン
キャスト
クワベンジャネ・ウォレス
ドワイト・ヘンリー
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作品データ
原題 Beasts of the Southern Wild
製作年 2012年
製作国 アメリカ
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