RERとメトロを乗り継ぎ、パリを縦断して次に向かうのはパリの南に位置するパリ14区の最南部。14区といえば、モンパルナス墓地が属する区であるが、モンパルナス墓地は区の一番北に位置し、対するこちらは区の最南端に位置し、国際大学都市(Cité Universitaire)と呼ばれ、パリで学ぶ留学生のために建てられた巨大な学生寮が集中するエリアである。
広大な敷地には各国の名が冠せられた寮が全部で37つあり、非常に緑豊かで快適な住空間が守られている。その中の二つ、ブラジルとスイス学生館が、20世紀の巨匠・ル・コルビュジェ(Le Corbusier)によって設計され、今も使われているということで、ぜひとも見学したいと足を運んだ次第である。
地下鉄の駅Cité Universitaireから隣接するモンスリ公園(Parc Montsouris)の脇を抜け、5分ほどで敷地の中へと入ることができる。途中不思議な単語をカタカナで並べた日本学生館の脇を通り、足元に転がる銀杏の実を拾うおばさんとすれ違い、目の前に現れるのがブラジル学生館(Maison du Brésil) 。1959年の完成であるからすでに半世紀使われ続けていることになる。
ピロティの下の空間からうねりとあふれ出るようにしてゴツゴツとした岩肌を感じさせる素材で覆われているボリュームをまわり込み正面に出る。ピロティの空間もエントランスも、目に入る一つ一つのエレメントがまずは構成としてしっかりとデザインされており、なおかつその一つ一つが素材や形、さわり心地など、しっかりと考えられ、時間をかけて設計されたというのが伝わるものになっている。これは本当に感動することであり、現在の我々が身をおく、現代の設計事情では何かを犠牲にしないとたどり着くことは難しい実感のあるデザインの数々に、我々は情報を得て豊かになったのだろうかと強く考えさせられる。
ちょうどタバコを吸う為に外に出てきた管理者が「見学かい?」と聞いてくるので、その旨を伝えると、数ユーロを支払って1階のエントランスホールのみ見学が許された。外光の取り込み方とそれに対応した色の配置、直線と曲線の組み合わせ、背の低いホールに対しての家具の高さ、手に触れるすべてのものに対して、何か個性を感じさせるデザインの数々。そして降りてきた学生の姿や張られた写真の数々で、そこに住まう学生が生き生きと生活を営んでいるのが手に取るように分かる。
きっと技術的には当時としては最先端であったであろうが、今で考えれば非常にベーシックな言語を使っており、ここの部位に対してしっかりとスケールをあげて設計がされていれば、こうして半世紀が過ぎていようとも、しっかりと愛されながら使われ続けることができるのだと改めて実感し、建築の中で変わる必要の無い普遍的な部分と、そしてデザインが時代を超えて人をひきつけることができること、そして現代の建築家が陥っている底の見えない穴のような状態にも改めて目を向けさせてくれる傑作の建築であろう。
パリ14区
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