ベネフィット・クラス。
2011年の夏にロンドンに訪れた時に起こったライオット。貧富の差が広がることに対しての自らの日常に対する鬱憤を晴らすように、SNSで拡散したその乱痴気騒ぎ的騒動の空気を実際に体験することになった。
その時に街で見かけた10代中ごろと思われる少年達が昼間からフラフラと街をたむろする様子。何か目的がある訳でも無く、ただただ持て余した時間をどうしてよいか分からず、未来に希望も持たないだけに何をするか分からないという予想不可能な雰囲気を醸し出しながら、こちらを見てくるじっとりとしたその視線は未だに忘れられない。
ロンドン滞在でお世話にならせてもらった、日本人とスペイン人の建築家カップル。彼らが教えてくれたのが冒頭の言葉「ベネフィット・クラス」。日本で言えば生活保護受給者層ということになるようだ。働くよりも手厚い保護を受けられるということで、労働に対する意欲を失い、それでも暮らしていけるために持て余す時間。若いカップルにできる複数の子供達。決して高まることも、向上心も教えられることの無い子供達の生活のスタンダードは親のそれそのもの。まさに貧困は遺伝する。その子供達が中心となり起こしているのがこのライオットだと、イギリスの現状を知った、イギリスに住む人の言葉に驚いた。
出来ることなら、少しでも楽をして生きていきたい。それが人間の本性であり、大多数の人がその欲望を抑えるだけの理性を身につけることなく一生を生きていくのが社会である中で、手厚い社会保障が施行されれば、必然として起こりうる事態。それが世代を超えて新たなる社会の根底を形成していくという事実。
自分とはまったく違う常識を持って生きている人が横にいるという恐怖感。
そのベネフィット・クラスの現実を描いたような映画。
イギリス映画に多くある、社会の弱者とされる家庭の日常を淡々と描いていく。ケン・ローチ的な誰もが知っているが、誰もが語ろうとしない、社会の膿の様な部分をしっかりとしたリサーチに基づいてリアリティを持たせて世界に見せ付ける。そんな映画。
ドロップ・アウトするということは時間を持て余すことで、何に時間を費やしたらいいかという対象を持ち得なかった人間には、更に孤独感を加速させてしまということと、母と姉妹二人の家庭に絶対的に欠けている力強い父親の存在。その二点を強く印象付ける作品。最初の30分はなかなか入り込みにくいが、子供と大人の間としての15歳のミアが、娘として、女として、子供として揺れてもがいて行くリアリティに引き込まれるのにそう時間はかからない良作。
--------------------------------------------------------
2009年・第62回カンヌ国際映画祭審査員賞受賞
--------------------------------------------------------
0 件のコメント:
コメントを投稿