2014年2月8日土曜日

スーパー銭湯の公共性

風呂好きの父親が、「最近できたスーパー銭湯の割引券があるから一緒にいかないか?」と誘ってくる。折角だからと風呂嫌いを公言している母親をおいて、妻と三人で出かける事にする。

地元には昔からあるスーパー銭湯があり、いつもはそこに足を運ぶのだが、今回は少し方角が外れた方向にできたという新しい施設。到着すると広い駐車場にはほとんど満車の車。

スーパー銭湯が郊外生活の一つのプチ贅沢に定着したのがモータリゼーションと融和したこの風景からよく感じ取る事ができる。日常の夜。夕食を食べた後の家庭で、「今日お風呂行くか?」と子供をつれてやってくる家族の姿。大人一人700円くらいなので、決して安くは無い金額であるが、毎日ではないからと少しだけ贅沢な気分になれて、なおかつ身体を伸ばしてお湯に浸かって、疲れが取れると自分に十分な言い訳を与えられる。

子供連れの家族が月に2,3回、一度につき2000円ほどの出費をすることで、恐らく十分施設的には利益を上げることができる仕組みになっているのだろうが、外食同様、通常家庭の中にあるものを外で行う事で少し豊かな気分に浸れるという、必要な日常の一部を外に持ち出すビジネスである限り、今後共間違いなく広まっていくだろうと思える業態であろう。

そんな間違いの無いビジネスだけに今後は競争が激しくなってくるはずであるが、そこに現れたのが二番手が、一体どんな手を使って差異化をしてくるのかと期待して暖簾をくぐる。

「500円の割引券をもらった」という父親がなにやら入口で戸惑っているようなので聞いてみると、これは通常700円のところ500円で入れますという割引券で、それを父親は500円割り引かれる券だと理解していたという。確かに分かりにくい表記をしてあるのでなにやら怪しいなと思いつつも料金を支払い妻と待ち合わせ時間を決めて中に入る。

脱衣場に入って気がつくのが、あちこちに張ってある「盗難注意」の張り紙。そして同時に張ってあるのが、「盗難については一切の責任を負いません」の文字。オープンから既に、何かしらのトラブルが発生したのかどうかは知らないが、明らかにトラブルに巻き込まれる事を回避することを目的とした張り紙。「忠告しましたからね。後はこちらは責任を負いませんよ」といわんばかりのその張り紙は見ていて少々気分が萎える。

流石に新しい施設だけあって風呂はなかなか綺麗で多様で、しかもそれぞれの風呂で共用のテレビが見れて、長く浸かっても飽きないようになっている。身体を洗い、一頻りそれぞれの風呂を楽しんで外に出て妻を待っていると、どうやら待合場所にはたくさんの子供向けのゲーム機が用意してある。どうやら甥っ子がはまっているという、魚釣りゲームもおいてあるようである。なんでも、お金を払うとより良い竿が手に入り、より大きな魚がつれるという課金方式のあれである・・・

見ていると浅はかなゲーム会社の姑息な手段にまんまと踊らされている無垢な子供達がダダをこねて親を困らせているようである。恐らくここに来ている家族の中には、子供があのゲームをやりたいが為に親にねだってこの銭湯に来ている人たちもいるのだろうと思わずにいられない。

自分で理性をコントロールできない子供をゲームで釣って、それをだしに家族を引き付けると言うなんとも古典的といえばあれであるが、そのようなビジネスモデルはますます下流化の流れを加速するだけでは?と思いながらなかなか出てこない妻を捜しに入口に。

カウンターを越えたところにも簡単な座れる場所があるので、ひょっとしたらそこで待っているのかも、と思い受付の人にそこまで人を探しに行きたいのですが・・・と聞いてみるが、「再入場は一切お断りですので」と頑なな態度。さっき中から出てきたところを見ていたはずだし、そこまでなら視界に入っているのでチェックもできると思うのだが、一切の例外は認めない方針のようである。

つまりは全てが性悪説に基づいて運営されており、「人は悪い事をするはずだ。だから先手を打って、こちらに迷惑がかからないようにしておこう。あとはそちらの責任です」というなんとも味気のない場所になっている。きっとそれでも十分利益がでているのだろうが、スーパー銭湯という少々わびしいが、残念ながらこれからの地方都市の地域の公共の場となる場所であるならば、少しは人間を信頼し、大らかな空間を作り出すことで問題を防ぐことができないのだろうかと思ってしまう。

どちらにせよ、二度と来る事は無いだろうし、またそんなに遠くない時期にここはつぶれるのではないだろうかと想像しながら、出てきた妻を連れ立って家路につくことにする。

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