松永大司
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スタッフ
監督 松永大司
脚本 松永大司
原作 松永大司『トイレのピエタ』
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キャスト
園田宏(余命宣告される元芸大生): 野田洋次郎
宮田真衣(高校生):杉咲花
横田亨(がん病院でのルームメイト):リリー・フランキー
尾崎さつき(宏の元彼女):市川紗椰
園田智恵(宏の母):大竹しのぶ
園田一男(宏の父):岩松了
橋本敬子(がんで入院する子供の母):宮沢りえ
橋本拓人(敬子の息子):澤田陸
武田晴子:MEGUMI
金沢:佐藤健
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建築という仕事柄、普段からアートに関する人々と接する機会をいただくことがある。美術館のキュレーターや、アートイベントのダイレクター、それにギャラリストやアーティスト。
改めて思うのが、普段日常で会っている「アートを生業としている人々」は、厳しい競争というフィルターをすでに潜り抜けてきている人であり、その作品やキュレーション能力において、世間からある一定の認知を受け、才能を認められ、絵を描いたり、作品を残すことに時間を割くことを可能とした人であるということ。
その中でもキャリアの段階において、それぞれにまた厳しい競争があり、その中で再度ふるいにかけられ、残った人がより上のステージにて、より大きな自由を得て信じる「アート」を世に送り出すことになる。
アーティストとして特別な才能と技術を身につけるため、芸術大学や独自に学ぶ。しかしその後どうにかして世に出るためには、誰かの目に留まり、評価してもらい、展覧会などの機会を得ていかなければいけない。その為に採用されているのが全国に散らばる様々な分野のアートを手がけるギャラリーシステム。才能があると目をつけたアーティストとギャラリーが何かしらの契約を結び、製作を援助し、方向性を語らいあい、そして展覧会を企画して世の目につくようにし、活躍の場を広げていくことで、アーティストの作品の価値を高めていく。
絵がうまかったり、独特の完成があり作品のクオリティを高めることができることと、それを誰かに知ってもらい、自らの活動を支える収入に変換すること。その二つはまったく異なる能力であり、小さなころからずっと絵を描いてきた人に、ある年齢からいきなり後者の仕事もしろと言っても、なかなかうまくできるものではない。営業や広報、そして人との付き合い。そんな対外的な才能とは違って、深く自らに向き合う能力があってこそできる作品もあるはずである。
しかし、現実は社交的で人付き合いがうまい、人脈が広い、可愛かったり、イケメンであったりと、絵の才能とは違う部分での要素を持っていることが、「誰かに自分の作品を知ってもらう」という点を突破するには大きな力を発揮する。
学生時代は同級生からも一目置かれ才能があるとされた芸大生。卒業後、定職に付くこともなく、アルバイトのビルの窓の清掃を行いながら、徐々に絵を描くことから遠ざかり、もやもやした気持ちを抱えながらも、クラブに通い刹那的に日々を過ごしていく主人公。
そんな主人公が突きつけられたのはいきなりの「がん」と「余命」宣告。そんな折にであった日常に苛立ちながらまっすぐに感情をむき出しにしてくる女子高生。徐々に弱る自らの身体と、「死」を受け入れながら生きていく周りの患者仲間の姿、そしてそんな自分の深刻さを物ともしない様に振舞う女子高生の真衣に振り回されながら、徐々に自分の人生を振り返り、自分の周りにいる人々と再度向き合うことになる宏。
この主人公を若者に人気だというロックバンド・RADWIMPSのボーカルの野田洋次郎が演じたことで、大きな話題を呼んで、かつ様々な映画賞にてもいろいろな賞を受賞しているようであるが、地方から絵を志して東京に出てきて、自ら求める「アート」と作品制作以外のことで評価されるアートの現状とうまく着地点を見つけられぬまま、漂うように今を生きる若者の演技はやはり真に迫ったものがある。
「余命」という自らの命の残り時間を直視したときに、人が何に時間を費やすのか。そこにその人が過ごしてきた一生の本質が見えてくる。そして主人公が選んだのは、出会った人々との記憶をとどめるように、アパートのトイレに「ピエタ」をモチーフとした女子高生の姿を描くこと。
学生のように若すぎず、社会人としての責任を持つほど老い過ぎず、モラトリアムの中で向き合う自らの残された時間。そこにはなかなか惹きつけられるものがあったが、今度アート関係の友達にぜひともどれくらいのリアリティがあるのかと感想を聞いてみたいものである。
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