2021年9月1日水曜日

ハンナ・ハウス Hanna House_フランク・ロイド・ライト Frank Lloyd Wright_1937 ★★★★


フランク・ロイド・ライト  Frank Lloyd Wright


アアルト、ロース、イームズ、ライト、ミースときたら次はコルビュジェであるべきかと思うが、この数年に訪れた住宅建築の中で印象的なものをと考えると、まずはこの住宅をまとめておくべきかと思って選んだハンナ・ハウス。
 
 シカゴでキャリアを始め、カリフォルニアで幾つかの代表的な住宅作品を手掛け、日本の帝国ホテルの仕事を切っ掛けに日本国内でもいくつかの建築を手掛ける中で、日本建築や文化の影響を受けてアメリカに戻った後の時期に当たる1936年に作られたこの住宅は、スタンフォード大学の敷地内にあり、スタンフォードで教授をしていたポール・ハンナがライトに設計を依頼された。



たまたまスタンフォード大学にて講演を頼まれ、大学内にある様々な建築を案内してもらう中でぜひとも見学したいとお願いし、ツアーに参加させてもらい内部も見学することができた。
 
まずはこのスタンフォード大学。世界有数の名門大学であり、 サンフランシスコ南東のシリコンバレーの中心に位置し、大学からすぐの位置には、アップルやグーグル、フェイスブックの本社が立ち並び、大学とスタートアップ、そして世界規模のIT企業への人材の流れの中心を担っているのもこのスタンフォード大学という訳である。

巨大な大学キャンパスには、卒業生からの寄付による図書館や音楽ホールなどをはじめ、様々な建物が広大な敷地内に点在しているために、それらを見て回るにも相当な時間が必要となる。大学内で講演に呼ばれた人は大学内に用意されている宿泊施設を利用することができ、数日間ではあるが、大学での生活を感じながら、世界中から集まった学生たちの日常を感じながら時間を過ごすことができる。
 
キャンパス内を歩いていて目につくのは、ハウスと呼ばれるアメリカの大学におけるサークルであるフラタニティ・ソロリティの施設の多さ。同じような服装に身を包んだ若者が、夜も遅くまでワイワイ騒いでいる様子は、まさに「モンスターズ・ユニバーシティ」の世界だなとアメリカの大学生活の一環を垣間見ることができる。
 


スタンフォード大学キャンパス


さて、このハンナ・ハウス。敷地はキャンパスの奥まった場所、大学関係者たちの住宅が集まる場所に位置しており、予約していたツアーの時間に合わせて周辺を散策しながら集合場所へと向かう。徹底した六角形によるモデュールを使って設計されており、 その為別名Honeycomb Houseともよばれているという。
 
施主であったハンナ一家からスタンフォード大学に寄付されたこの住宅は、 地震に因ってかなり大きなダメージを受け、その修復に長い年月をかけており、現在も少しづつ手を入れて維持しているのだという。ガイドの女性の話によると、訪れた2017年は建物が完成した1937年から80周年の記念で、それに合わせて大きな改修が一段落したと言う。現在はスタンフォード大学が管理をしているらしく、内部を見学するには一年に二回しかないツアーに参加しないといけないという。今回は講演の件もあり、大学関係者が特別な手配をしてくれて内部のツアーを行ってくれたという訳である。
 
 そんな事情もあり、日本語ではあまり情報が出てこないのだが、ネットで見てみるとどうやらその年二回のツアーでは内部でも写真は撮ってはいけないと言われるらしく、今回は建築学科関係の講演であったこともあり、とても丁寧に建物について説明してくれ、かつ内部での撮影も許可してくれたが、ここでは写真は外観のものだけとしておく。
 
小高い傾斜地に建つ建物にアプローチしていくと、途中からこの六角形の幾何学による世界が始まり、その上に低く軒高を抑えた庇が 横に伸びる姿が見えてくる。階段を上っていく途中にはライトが日本で購入し持って帰ってきたという灯篭が置いてあったりと、日本人としてはなんだか嬉しくなりながら入口へ向かう。
 
もう一人のゲストと一緒になって、ガイドの女性を説明を受けながら建物を巡るのだが、庇の下の影の空間に近づくと、徐々に見えてくる六角形によって作られた凹凸のある建物の境界線。エントランスですら斜めに向き合ったガラス扉となっており、今の常識ではとても考えられない収まりにまずは驚かされる。




建物は内部にところどころ段差はあるが基本的に平屋となっており、真ん中に位置するキッチンなどのサービス空間を取り囲むように、エントランス、ホワイエ、リビング、ダイニング、そして個室群が配置されている。
 
スケッチをしていると分かるのだが、二軸で構成される多くの経済的な住宅とは全く異なり、寸法を取ったりスケールを合わせていくのが非常に難しい。現在にこのような図面を描いたら一体どんな見積もりが上がってくるのか心配になりそうであるが、しばらくするうちに、紙をクルクル回転させてながら、六角形のもととなる3つの軸、60度の方向性に合わせて線を引いていけば、徐々にこのシステムに入っていけることが感じられる。一つの住宅でも、あるシステムを使い、それがすべてを統一していれば、経済合理性が得られて、かつそれに挑戦しようとする施工会社もいたのだろうかと思っていたが、当時でも当初予算に対し最終的な総工費は2.5倍だったというから、やはり人が作るものとして二軸よりも三軸は高くつくのは当然かと納得。
 





内部を見学していくと、六角形もしくは三角形の幾何学に合わせて、至る所の造作がまぁよく作られているのに感動する。施主のお気に入りだったという隠れ家のような洗面台やトイレも、この六角形が作り出すなんとも言えないスケールの空間にぴったり収まっているのに驚きながら、部屋ごとにことなるディテールの発見をしながら、ぐるりと住宅内を巡ると最初のホワイエに到着し、続いて外構の説明を受ける。内容たっぷりのツアーに、ガイドの女性にお礼を伝え、身体に染み着いた六角形の世界を後にしてゆっくりとキャンパスを歩きながら部屋へと戻ることにする。

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