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カンヌ映画祭(2016) 最高賞パルムドール受賞
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日本でも宮崎駿監督が引退撤回で再度長編アニメをと意気込んでいるように、海の向こうでも往年の名監督が現代の社会を憂い、再度映画の世界へと舞い戻ったことで話題になった作品。
その作品が、2016年のカンヌ映画祭で最高賞・パルムドールを受賞するというのだからケン・ローチ(Ken Loach)の作品はこれを機にちゃんと観てみようと良いきっかけになる。
ユーロ離脱で揺れに揺れた2016年のイギリス。緊縮財政政策で福祉にかける予算が減らされ、現場の職員には余裕は無くなり、それが本当に困っている一般市民へとジワジワと押し寄せるそんな姿が見事に描かれる。
ブレグジット(Brexit)に追い込まれたのは、移民問題とユーロ問題と言われるが、ヨーロッパにおいても移民に対して最高レベルの保障を与えてくれるイギリスは、国境を失ったEU内部の国々からの人々のもっとも望む目的地となった。彼らの福祉の為に支払われる膨大な税と、比較的低賃金でも自らの出身国での待遇に比べたら遥かによい給料が支払われる仕事は次々と移民の手へと流れていき、単純労働と呼ばれる職がイギリス人から奪われる。
国際政治の舞台において「寛容さ」を失わないために、ポリティカル・コレクトネスを保持していくことは、真綿で首を絞めるように、今までは何の疑問も持たずに仕事をし、それなりの生活を享受できた自国民の生活を苦しめていく。
リテラシィが低いことで本来得られるべき補助を得られなくなるのは、情報でもITにおいても同じことである。本来なら様々なところで公的な助成が受けられるのに、それを知らない為に自らとその子供たちを貧困のループに陥れてしまう情報の難民の様に、主人公の元大工のダニエルもパソコンとインターネットの使い方が不慣れな為、公的な補助を思うように受けられず、宙ぶらりんな状態で苛立ちだけが募っていく。
そんな中に福祉施設の受付で、同じようにトラブルに巻き込まれているシングルマザーと2人の子供と出会い、似たような境遇の者同士助け合いながら、それぞれに向き合っている厳しい社会の現実を描き出しながらも、互いにできるところで助け合うことで、「私は人間だ、犬ではない」という言葉に示される「尊厳」を描き出す。
これと同じことは、恐らく現在の日本の様々な都市でも見られ、シングルマザーで生活がままならないまま、子供たちも貧困や非行へと落ちていく姿や、情報にアクセスする余裕すらなく生活に追われ、それでも「自己責任」として周囲に助けを求めることなく社会から孤立していく人々。
この時期に、この内容で、こうして社会を描くことは、やはり社会派監督として映画の力を信じてのことであろうが、昨年あたりまで繰り返しの様に放送されるNHKスペシャルを見ているような思いになるのも、また事実。ぜひとも、日本でもこのような内容の映画が、テレビのドキュメンタリーとしてではなく、「映画」というメディアで作られる、そして多くの人がそれを通して社会の現実や問題に目を向ける。そんな時代が日本にも来ることを祈らずにいられない。
ケン・ローチ(Ken Loach)
デイブ・ジョーンズ(Davy Jones)
ヘイリー・スクワイアーズ (Hayley Squires)
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