2014年3月21日金曜日

「うなぎ」今村昌平 1997 ★★★★★

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第50回カンヌ国際映画祭 パルム・ドール
第71回(1997年度)キネマ旬報ベスト・テン 日本映画 1位
第26回キネマ旬報読者選出ベスト・テン 日本映画第2位
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ここ最近は日本人の映画監督だけでなく、日本人の俳優が華やかな現地でのセレモニーに参加することで何かと注目されることになっているカンヌ国際映画祭

海外の映画祭といえば必ずあがる有名映画祭であるが、ベルリン国際映画祭、ヴェネツィア国際映画祭と併せ、世界三大映画祭の一つである。フランスの映画祭だけあって、やはりハリウッドで受けるようなものとはまったく違う価値観とテーマを持った作品が出品される映画祭である。

そんなカンヌ国際映画祭において、日本人監督として二度も最優秀賞にあたるパルム・ドールを受賞した日本人映画監督が今村昌平(いまむらしょうへい)。誰でもその名前は聞いたことがあるくらい、映画監督としては知名度の高く、毎年「今村監督作品の○○が今年の○○国際映画祭に出品されました」などというニュースを耳にしている気がするくらいである。

早稲田大学出身の今村監督。平成18年に79歳にて亡くなられたのだが、あまりに耳にしている回数が多いので、ついついその作品も見た気になってしまっていたが、改めて観てみようと思い何を見るかと考えるとやはりこの作品からかと選んだ「うなぎ」。

二度のパルム・ドールを受賞したというが、その受賞作は1983年の「楢山節考(ならやまぶしこう)」と1997年のこの「うなぎ」である。何とも意味深なそのタイトル。97年の作品なのでそれほど古くはないはずだが、時代設定が1988年にされ、それに合わせるように画面の色もやや色あせたレトロな色調。

釣好きサラリーマンの主人公を演じるのは若き日の役所広司。ある日、差出人不明の手紙を受け取り、その内容を見てみると、「あなたが釣りに出かけている夜には、奥さんが男を連れ込み浮気をしている」と。そんな訳はないと思いつつ、気になってある日早めに釣りを切り上げて帰宅すると、そこには男との不倫の現場の妻の姿。

怒りにまかせ妻と男とめった刺しにしてしまう主人公。そのまま自転車で近くの警察に「妻を殺しました」と出頭する男。そのまま服役をし、8年後に釈放される時には、囚役中に飼い始めた「うなぎ」と一緒に塀の外にでてくることに。

その後世話人の住職の世話により、千葉の佐倉市の川辺のバロックを改修し、質素な理髪店を始める。くるくる回る懐かしの理髪店のサインポール。興味半分で集まる地域のやさぐれ者達。妻の裏切りから人間不信になっている主人公は寡黙に淡々と仕事をこなし、できるだけ深く人と関わりあわないようにと日常を送る。そんな彼が唯一心の内を明かせるのは、飼っているうなぎ。

そんなある日、川辺で自殺未遂をしている若い女性を見つけてしまい、警察に届けることに。命を取り留めたそのヒロインは事情があって東京から逃げ出してきたらしく、「ここで働かせてください」と強引に理髪店を手伝うことになる。

そんな小さいながらにコミュニティがあり、濃厚な人間関係があり、それぞれに深い闇を背負って生きていながら、人とのつながりの中で、やっぱり人間は人間と一緒に出なければ生きられないというような、暖かい日常を描き出す。

何かのきっかけでこうして殺人を犯してしまうことがあるかもしれない。それは人間誰でもわからない。でもこうして人生をやり直すことができ、真摯に生きていれば、それをしっかりと受け入れてくれる人たちがいるという日本の風景は、それはそれで美しいと思わずにいられない。

新自由主義経済の波が押し寄せて、誰もが自分の生活で手いっぱいとなった現代社会。こうして隣人の人生に深く手をつっこみ、そして付き合っていく地域コミュニティのあり方は、これからどんどん難しくなっていくのだろうと思いながら、これもある意味現代から失われた「三丁目の夕日」と同じ風景なのだろうと想像を膨らませる。
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スタッフ
監督 今村昌平
脚本 冨川元文・天願大介・今村昌平
原作 吉村昭
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キャスト
役所広司 山下拓郎
清水美砂 服部桂子
柄本明 高崎保
田口トモロヲ 堂島英次
常田富士男 中島次郎
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作品データ
製作年 1997年
製作国 日本
配給 松竹=松竹富士
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