2011年8月9日火曜日

ロンドン ③


「洋介がガイドになると、建築関係のところしかいかないだろうか、それでは奥さんが可哀想だ」

ということで、クリスティーナがわざわざ休みを取ってくれ、一日ガイドとして観光に付き合ってくれると言う。

今回はイニゴー・ジョーンズから、ナッシュにソーンの二人のジョン、ホクスムア、クリストファー・レンにノーマン・ショウと、大陸で皆が躍起になって近代建築をやり始めていたときに、「一体あいつらは何をしてたんだ?」と言われそうな英国紳士の活動振りをしっかりと身体にしみこませる為にと膨大な数の建築を網羅したリストを予め渡してあったので、それを元にしながら、来年のオリンピックの関連施設を設計しているという彼女の現在の仕事を通して見た、最新のロンドン建築も加味しながら回ってくれるという。

これは楽しい一日になるなとホクホクしている隣では、「ちゃんと王道のロンドン観光も網羅するから心配しないでね」と妻につぶやいてくれている彼女の気遣いに感謝。

まずは典型的ヴィクトリアン様式の建物を残すリバプール・ストリートから開始。英国に留学に来ていた辰野金吾が学んで持ち帰ったのが、その時大流行していたヴィクトリアン様式の赤レンガ造りだったので、それが東京駅などの明治の主要な建物の適応されたんだよと、なんとか分かりやすくイギリスと日本の建築の絡みを妻に説明しながらできるだけ建築部分の時間を確保しようと画策する。

端正な顔つきのジョージアン様式から、大英帝国の良き時代を示すような輝かしいヴィクトリアン様式を踏まえて、イゴニーかイニゴーかいつも間違える彼によってもたらされたパラーディアン様式で新古典に舵を切り、大陸に送れる形で近代建築に突入していくんだと、ざっくりな建築講義をしてあげて、なぜここが建築史を遡る開始点なのかととうとうと説明する。

なんだか分かったような分からないような顔をしている妻だが、シャーロックホームズが駆けてきそうな趣のある小道の散策はなんだか楽しいようで、またまたこの機嫌が長続きすることを祈りながら、最近再開発されて非常に心地良い空間が生まれたというデヴォンシェアー・スクエアを通り抜け、こちらも古いものと新しいものがどう並列してさらに新しい空間が生まれるかという良い例であるスピタルフィールド・マーケットへ。

「これが有名なスピタルフィールド・マーケットだよ」と妻に説明しながらも気持ちは横にあるホクスムアの教会に・・・。

お洒落な店が幾つも集まるブリックレーンで数店冷やかし、ロイヤル・エクスチェンジで英国の気品を感じながらも、イギリス製品の洋服などがバーゲンされているというお店での女性人の気晴らしを待ち、次のジョン・ソーンによるイングランド銀行へ向かう脚は否が応でも早足に。

ソーンの光と影を堪能したら、今度はクリストファー・レンのパリッシュ教会経由で、こちらもレンの聖・ステファン教会を横目に、中世の趣をかもし出すギルドへ。ロンドンもローマン・シティだと納得させられるような地下に広がるローマ時代のアンフィシアターの遺跡展示に眼を見張り、これまたレンのメアリ-・ル・ボウ教会へ。

そろそろ教会空間にも飽きてきたらしい妻の為にと、ちょっとウインドー・ショッピングもとジャン・ヌーヴェルがセント・ポールの隣に手がけたワン・ニュー・チェンジ・ショッピング・モールへ。空に溶け込むようなファサードと、セント・ポールを切り取ったような内部広場を通り抜け、「ケイトが結婚式挙げたところだよ」、とセント・ポール大聖堂に辿り着き、昼時にランチを求めてオフィスから溢れてきたビジネスマンに紛れて近くのレストランで昼食に。

ランチの後はバスで一気にセンターに向かい、グリーン・パークの草の上でくつろぐ人々の間を抜け、ケイトとウィリアムの結婚で沸いたバッキンガム宮殿へ。式でケイトが身にまとったウェディング・ドレスが実際に見えるという内部のツアーは来週の末までチケットがないということで、東国原も真っ青のセールス・ウーマンだねと言いながら後ろ髪を引かれながらも宮殿を後にし、時間がないから!ということでロンドン・キャブに飛び乗って目指すはジョン・ソーン博物館。

これぞオタクという光と影の結晶の空間に、人数制限をされて随分待たされたこともすっかり忘れてしまい、日が暮れて来た空に終われるように大英博物館でフォスターの美しい3次元曲面のコートヤード空間を堪能し、仕事を早めにあがってくれて合流してくれた徹さんと一緒に、僕と徹さんの二人にとっての母校であるAAスクールの前で妻と記念撮影。

その後、せっかくだからとイギリス・パブで一杯ひっかけてから、すっかり綺麗になったブランスウィック集合住宅の脇を抜けて、かつて誕生日BBQを開催していたイニゴーのラッセル・スクエアを抜けて辿り着いたのは、思い出のたっぷり詰まったイタリアン・レストラン。

これでもかというくらいの量のムール貝と同じくらい、一日では消化しきれない量の建築を堪能して、すっかり気持ちよく酔いながら、この国で建築を学ぶ上で当たり前のことを知らないといけないと、大学院の授業の傍らイギリスの建築史を自分なりに調べていた頃を懐かしく思い出す。

威勢のいい店員さんの掛け声と、4人の笑い声が響きながらまた更けていく3日目のロンドンの夜。

























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