長谷川英祐
ハチやアリに代表される「コロニー」と呼ばれる群れを成して、それ全体がまるで一つの生物の様にして活動する特殊な集団特性を持つ生物を「真社会性生物」という。
個別の視線で見たら、決して生存に有利に働かないのにもかかわらず、コロニーという全体で見ると種の繁栄にプラスに働く「利他行動」を取ることが、真社会生物とその他の社会生物を区別する点である。
働き者と言われるアリのコロニーをよく観察してみると、いつも働いているアリがいる一方で、ほとんど働かないアリが見つかる。なぜ彼らは何もしないのか?なぜ何もしない彼らを必死に働いているアリたちが文句を言ったり、コロニーから追い出したりしないのか?
「個」の視点から考えていても決して辿りつかないその答えは、アリにとっては「個」よりもより重要なもの、つまり「コロニー」をいかに次の世代に残していくかの方が、より社会にとって重要であるから。
そしてその為に、皆が皆、いつも必死に限界まで働いている状態よりも、常に集団の中に余力を残し、想定外のことが起きたときに対応できるようにしていくことの方が、より「群」として生存率が高くなることを、アリはその遺伝子レベルで理解しているということ。
そして集団の中に、仕事をするアリと、しないアリ。それらのサボっているように見えるアリも、ある一定のレベルを超えた仕事量がコロニー全体に降りかかると、突然働くようになるという性質、「反応閾値」=「仕事にたいする腰の軽さの個体差」を持つことで可能としている。
守備の上手い選手ばかりや、足の速い選手ばかり集めても強いチームができないように、多様性がチーム全体の力をあげるのに役立つように、人間社会においても職業人として基本的な能力は保持しつつも、多様な個性の集合体の方が組織として強くなるということ。
皆が皆、性善説に沿うようにまっすぐに原理原則に従うのが社会ではなく、個が貢献してコストを負担することで回る社会があれば、今度はそのシステムを利用して、社会的コストの負担をせずに自らの利益だけをむさぼる「裏切り行為」を行う「フリーライダー」。が出現するのはヒトもアリでも同じこと。
不公平に思えるサボる社員もひょっとして、より高次の視線から見ると、長期的な組織の存続に何かしら寄与しているのかも・・・と期待を込めて観察してみるが、やはり疑問符だけが心の中に残るだけ。
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■目次
序章 ヒトの社会、ムシの社会
第1章 7割のアリは休んでる
第2章 働かないアリはなぜ存在するのか?
第3章 なんで他人のために働くの?
第4章 自分がよければ
第5章 「群れ」か「個」か、それが問題だ
終章 その進化はなんのため?
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