2013年7月4日木曜日

とぐろ


この時期、日が暮れた後の胡同を自転車で走っていると、犬や猫などの小動物らしきシルエットが避けるように足元を駆けていく。

轢かないようにと避けながら、きっと今宵もこの迷路のような道のどこかで、胡同の主がむくりと寝床から起きだし、夜の街へと出て行く姿を想像する。

そんなことを思いながら道を進んでいくと、別の寝床のイメージが頭によぎる。

暗い森の奥地。ぽっかりと開く横穴。

その奥は外部よりも幾度か温度の低いひんやりした暗闇が横たわる。
その闇の中にとぐろを巻きながら、長い身体を横たえて、深い眠りに潜む大蛇の姿。

うっかり穴に足を踏み入れて、小枝でも踏みつけたものなら、
その音を逃すことなく聞き取って、優雅に頭をもたげ、
音も無く入り口に向かって、その長い首を伸ばしながら、
紅く長い舌をペロリと出す姿を想像する。

湿度の高い夏の夜に、
夜空を漂うような勝手な妄想によって、
背筋にゾクリと震えを覚える。

そんな妄想が脳裏から離れず、いつもは追い込まれながら、駆け込むようにゴールに飛び込んでくる動物達の姿を追いながら一年を終えるが、今年の様に神々しいその姿にせこせこした振る舞いは似つかわしくないと思い立ち、6ヶ月の猶予を持って木彫りに着手することにする。

その下絵の参考にと、ネットで参考になるような作品を探しながら、妖しくそして艶かしいその姿にうっとりしていると、横から覗いてくる妻が言い放つ。

「やめてよ、そんなの気持ち悪い。
うんこみたいだし、家の中にあったら気持ち悪い」

と・・・

「???」

何を言っているのか一瞬分からなかったが、どうも「とぐろ」が彼女の想像力を刺激したようである。


「正確に彫れるほどまだ腕が無いから大丈夫だけど、それでも踏んじゃわないように気をつけてね。」

と言い放ち、完成後は我が家の中にも安心できる横穴と寝床を探してあげないといけないなと勝手の妄想を続けることにする。

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