2021年10月13日水曜日

Sir John Soane's Museum ジョン・ソーン美術館_John Soane ジョン・ソーン_ 1809 ★★★★★

 

ジョン・ソーン(John Soane)

英国の建築学校においては、年度末に外部より有識者を招いて学校の方針や指導方法が国の定める基準に達しているかどうかを、各学年のレベルに沿って判断し、アドバイスを行うExternal Examinerの制度がある。

母校であるAA Schoolより招聘を受け、5年間その任を全うしたのだが、その最後の年となった2019年。Intermidiate(日本の学部1,2年生に当たる)のあるクラスが一年を通してのテーマと上げていたのが、[Crude Hints Towards an Architectural Academy of the Future]。つまり未来における建築の学びの場とは?という投げかけで、その中のヒントとして [House Museum]、つまり建築家の作った住宅、もしくは建築家自身が住んだ自邸が建築を考える上で大きな意味を持つのではないかということで、その最初の一歩として挙げていたのがイギリスを代表する大建築家、ジョン・ソーン(John Soane)の自邸であり、現在は美術館として公開されているジョン・ソーン美術館(Sir John Soane's Museum)。

エリートであったソーンは、グランド・ツアーとしてイタリアを訪れる機会を得て、着実にキャリアを積み重ね、イングランド銀行の設計を行うなど、英国を代表する建築家として活躍した。その一方様々な場を訪れた際に収集した絵画や建築に関わる装飾品などを自宅に飾り、テラスハウスの両脇の家も徐々に買い取り、自宅内の展示も増殖させていったことで知られている。

そのソーンの収集品と自宅を見せるのがジョン・ソーン美術館で、内部は博物館として設計された訳でなく、自宅に展示していたもの、そして徐々に拡張されていったこともあり、まるで迷宮の様な複雑な空間に、空間を目いっぱい利用して収集物を展示し、壁も天井も所狭しともので埋められているその空間は、まるでソーンの頭の中を覗いているような一種おどろおどろしい空間となっている。

ジェフリー・バワの兄であるベヴィス・バワの作り上げたブリーフ・ガーデンも一人の人間の一生に渡る執着の空間化という点では同種の雰囲気を醸し出しているが、スリランカのそして田舎の広大な地にひっそり隠れるようにして作られた外部と一体化した理想郷に対し、こちらはロンドンという都市の仮面を被ったテラスハウスの一角に、ひっそりと作り上げられた洞窟の様な空間性。実際に訪れた際には、様々な場所が夥しいモノによって覆われていながら、その一つでもその場所から少しでもずれていたら間違っているという印象を受けるほど、光の入り方、視線を注ぐメインの彫像の位置、そしてサイズを変える様々なオブジェクトの並べ方など、それぞれの場所で一つ一つ空間が完結していることには驚かされる。

そして、どこが入り口で、参観経路がある訳でもなく、ソーンが一日を過ごし、そして建築に向き合う為に様々な場所に座り、収集したモノ達と対話し、そしてアイデアを受け取って図面に向かっていた、そんなHouse Museumの時間の流れが生き生きと伝わってくる。

この空間は恐らくどの時代を生きた人々にも深い感銘を与えることを証明するかのように、18世紀の建築家でもあり、画家でもあった ジョゼフ・ガンディ (Joseph Gandy)の描いたこのジョン・ソーン美術館の絵が、この空間性を最もよく表現している。

日常の中に目にする場に置くモノ。それはその建築家の頭の中であると同時に、今まで訪れてきた建築や都市の写しでもある。東洋においては庭園が世界のミニチュアとしてその役割を果たし、思考の場として機能してきた部分もあるのあろう。
 
そのような贅沢な空間を持てない現代では、このような夥しい数のモノに覆われた粘着性のある空間は、都市の個室を覆うフィギュアなどの趣味性の空間にとって代わられる。
 
まんだらけとソーン美術館。そんなことを考えながら、自分の家の壁を覆うのは一体何になるのかと考える。



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