2016年1月23日土曜日

起きた事故の先にあるもの

1月15日に起きた軽井沢スキーバス転落事故。乗客のほとんどがスキー旅行に向かう大学生ということと、低予算でツアーを請け負っていた旅行代理店、ずさんな管理のバス運行会社の実情が相まって、世間の注目を浴びる事件となっている。

その後徐々に様々な情報が出てきて、当日運転を担当していた従業員の経歴や、大型トラックの運転に関する経験と技能が十分であったのかどうか、うねるような峠道が続く上り坂を上りきったあとの比較的見通しのよいゆるい下り坂における、大型バスの制御の難しさなど、具体的に事故の原因も見え始めてきている。

と同時に、メディアでは様々な角度から規制緩和による過当競争による下請けのバス運営会社が低予算にて仕事を請けなければいけないこと、それで多発したバス事故によって最低価格が設定されたりと行政側による様々な対処が行われたが、それでも現場ではやはりできるだけ安く下請けに出すことで格安を売りにして客を集めるシステムは変わるはずがなく、今回も定められた価格よりも低い値段で発注され、それを受けざるをえないバス会社の事情もあり、それが結局は現場で働く運転手などの人々の労働環境や、人材の確保へとしわ寄せが来るという図式が見えてくるだけ。

そのほとんどが大学生だったというツアー客で、いかにも大学生だから少しでも安いツアーに参加してしまうのはしょうがないという報じ方が多く見えるが、おそらく今の時代、年齢に関係なくどの世代でも同じように少しでも「コスパ」を比較し、少しでも安い方にいってしまう、それは時代の流れであろう。

問題なのはその「コスパ」という言葉が、ただ単にどこからどこにいくか、どこから出発か、どんな宿か、そして幾らか、ということに終始し、主催するツアー会社がいったいどんな会社なのか、今までの実績がどうなのか、そして実際にバスを運行する運営会社がどのような会社で、どのような技能を持った運転手が、どのような安全体制のもと運営が行われているのか、などの安全面などに関する様々な要素は知ることができないし、また顧客側もそれを知ろうともしないし、いちいちそれに時間を費やすほど現代の社会はのんびりと過ごしていけない。

とにかく効率とスピードとコスパを追求する現代社会では、「それらの安全面などは市場に出す商品として最低限の基準としてクリアしていてくれよ」という暗黙の願いとなっているが、今回それがやはり守られていないし、守られるようなシステムになっていないのが分かった訳である。

そうなると少し値段が高くても、やはり大手企業が企画するツアーに参加して、安心を買うということに回帰する動きもでるのだろうが、そこで上記の内容をどう知ることができ、どう担保できるのか?

おそらく少なからぬ人が体験があるだろうが、大手レンタカーではない、新規参入のレンタカー業者で借りたレンタカーが何年も型落ちの車で、バックモニターがついてない、カーナビの地図が古くてナビがうまく機能しない、ましてやカーナビがうまく設置されておらず、運転中ゴロゴロと外れて危うく事故りそうになるなんて経験があったりと、結局やっぱり名の知れたところに戻ることになる。

引越し業者も同様で、ネットで比較し少しでもお得なところにと頼んだ中小の業者で、当日やってきたのはいかにも経験のなさそうな中高年の派遣作業員。現場で誰が指示を出すのかもはっきりせず、家具や壁への養生もずさんで、かつ運び方も慣れておらず、家具を角にガンガンぶつける始末。これでは大変なことになると自分で指示をし、最後に業者にクレームを入れると、「正社員の担当者が急に現場にいけなくなり、大変ご迷惑おかけしました・・・」と。

こうなると想定したサービスを受けられる金額はいったい幾らなのか?それを判断する能力が今後はより求められることになる。

と同時に、今回のバスの事故は、「即日配達します」など売りにする、さまざまなネットショッピングのために、数年前に比べ比較にならないほど多くの配送の需要があり、トラックとその運転手が必要とされるようになっている。

そこに押し寄せたのが、近年の「爆買い」に代表されるようなインバウンドの外国人旅行者。個人でくる若者に対し、ほとんどの外国人はツアーに参加し、大型バスであちらこちらへと送り届けられる。そこでも大量に確保されるトラックと運転手。

そんな時代の要請を正面から受けるようになったのがこのバス業界。人材確保と、車体確保が非常に難しくなり、そのためにできるだけ仕事を回していかなければいけないし、その為にできるだけ低価格でも仕事を請けることにつながり、大手で競争にも勝ち抜け通常価格で仕事を請け、従業員の労働環境を担保できる企業に対し、安い価格で受注することがダイレクトに従業員の労働環境の質低下に直結する企業に二極化していく。

この図式は、他に目を向ければ様々なところで同じ様相が見えてくる。たとえば航空業界。こちらも数年前に比べれば恐ろしいほどの人が、都市を越え、国を超えて移動するようになった現代。今まで飛行機に乗ることもなかった人々が、当然のようにして空の交通を利用する。

その需要にこたえるために、大手だけでなく、様々な新規参入の企業が航空機と、それを運行するためのパイロットの確保に躍起になる。路線を確保するためには、客が集まらなくても飛ばし続けなければいけないだろうし、その為に質の悪い労働条件で働かなくなる人もでるような二極化が起こるのは容易に想像つく。昨年から世界の各地で頻発する飛行機事故もこの流れの一環なのだろうと想像すると、LCCをどう選んでいくかも今後の世界では重要な能力となっていくのであろう。

こうして想像を膨らませていくと、起こるべくして起きた事故はこの世の中に多くあふれており、その先にあるのは、規制を強化するだけでは簡単には変わりそうもない構造的な問題。今のところ自分たちでできるのは、どこに危険性が潜んでいるかと想いを馳せる想像力を強化して、その選択には効率やコスパだけでない視点を盛り込んでいくことだろうか。

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