2013年8月14日水曜日

所作

学生相手に建築の考え方を指導している時期に一緒にユニットを担当していた教授はその昔、自分もお世話になった建築家の先生。

ある日学生に参考の為に、パドヴァにある教会の話をしていたら、「たしかスケッチブックにプランがあったはずだけど・・・」と鞄の中から取り出したのは分厚いA5サイズの良い感じに色あせた皮のカバーをかけられたスケッチブック。

その中からは溢れんばかりの陽に焼けたベージュの紙に書かれた幾つものスケッチとメモ。それらをペラペラめくりながら、「あ、これこれ」と取り出したのは、ポーチ部分が前面道路に対応して歪んだ教会堂のプラン。

それを見ながら、この先生は、心に残ったものをスケッチし、メモを取り、この一冊のスケッチブックにスクラップしていくとうい作業を何十年も変わることなく続けていたのだと理解し、その繰り返された行動とその結果生み出されたこのスケッチブックは何者にも変えがたい美しさを放っていると感じた。

積み重ねる時間の中で、徐々に収束する一番適した自然な動きを身に着けることが所作だと思う。この先生のスケッチブックもまたその所作の一つであると思う。

その人の生き方に対応した所作を身につけている人は美しいと思う。

決して回りに流されること無く、乱されること無く、どんなにスローであろうとも、淡々と自分の時間の流れ方を知っている。誰もが乱すことができないその所作。

茶道などはその最たるもの。人一人が人生をかけて身に着けるその所作。その身に着けたものを更に次世代へと受け継ぎ、何代にも渡ってより高い極みへと昇っていく。

逆に言えば、職業人として如何に早くその所作を身に着けられるかが重要である。何十年と続く職業人としての時間。その中で経験や知識と共に過ごし方が変わるのではなく、職業人として土台を作るのと同時に如何に所作を身に着け、循環の中で向上を手に入れていくか。

所作が身についたものほど、日常の仕事から受けるストレスも少なくなり、自分のペースで仕事を進めることが出来る。やるべきことをリスト化し、カレンダーに項目化し、一つ一つスケッチによって視覚化し、スタッフとコミュニケーションし、上がってきた資料を確認していく。

建築家としての所作を身につけ、ぞれぞれの所作をより精密化しながらも、その組み合わせで目の前の問題に対応していく。そう頭を巡らしながらも、心を整え新しいスケッチに向かうことにする。

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