2010年12月10日金曜日

「天空への回廊」 笹本稜平 光文社文庫 2004 ★★★★
















アイガーに続くは世界最高峰ヒマラヤ。人間が生命活動を保持出来る、ギリギリの高さに世界最高峰があるというのは神のイタズラか。

その過酷さは、壊死して落とされる指をもたらす寒さでもなく、打ち付けたピッケルもテントも全て白に還元してしまう雪でもなく、世界最大の空中ブランコよろしく、身体ごと氷の壁にぶちつける風でもなくて、身体が一つの肺になったと思うほどの酸素の薄さをもたらすその高度。

わずかな休息の中で沸かしたお茶をふくむ事で、酸素を運ぶヘモグロビンが血流の中で流れだすのが見えるような過酷さ。頂上付近のたった数百Mが、1000M下での数時間の活動よりも厳しいという1/3の酸素量での活動。

宇宙から見ると、皮膚のようにうっすらと地球を取り巻く大気。その大気に生を守られ、さらのその皮膚の中でも微妙なバランスで日常が送られていること。

冷戦時に大国が産み落とし、宇宙に残された核の傘を巡っての暴走の跡。インド、中国、ミャンマー、ネパールと微妙な政治学の働く国境付近に落とされた衛星に隠された秘密。それぞれが様々な思惑を持って、軍さえも無意味化してしまう世界最高峰の高度での探索活動の為に、居合わせた世界トップクラスの登山家、サトシ・マキの能力に世界の明日が託される。

600ページを超える冒険長編だが、さすがは笹本稜平。飽きさせることなく読み切らす。寒い冬を前にぜひの一冊。

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