2012年8月19日日曜日

間合い

この国で建築を仕事にしていると、スケジュールなんてものは変えられるのが当然だという意識になってくる。

進めている南京での大きなプロジェクトは、月末に予定されていた大きなプレゼンテーションが何の理由かも知らされずに、数日前に突然来週の月曜日に締め切りが前倒しされ、コミッションだと聞いていたのが、実は他にも同じ条件で3社にも依頼していて、コンペの形式になっているという。

そんな訳で週末というのは「想定外」の事態に対応するべき時間だというのが身体に染みつき、一ヶ月に一日、二日まったく事務所に出なくてよい週末があるくらいで、その他は何かしらのプロジェクトに翻弄されることになる。

そんな風に「間合い」をもって臨んでいたはずだが、流石に延べ床面積50万平米を超える巨大プロジェクトで、悠久の歴史を持つ中国の商業空間と現代との幸福なる融合を目指し、新しい都市空間の創造を求められる中、この2週間の前倒しは流石に「想定外」という言葉を使いたくなるが、そう口にしても誰も代わりにやってくれる訳ではないので、心を落ち着かせ、再度「間合い」を取り直す。

それまでに用意すべきプレゼン内容を担当者と綿密に話し合い、最小限で最大限の効果を得るべくストーリーボードを用意し、どれだけの仕事量が必要で、どれだけのマンパワーが欠けているのか把握する。

締め切りを控えていない他のプロジェクト・チームは通常の週末に入ってしまうので、週末に入る前に足りない分を補充すべく、他のプロジェクトの担当者に話をし、スタッフやインターンから得意分野によって、この週末に別のプロジェクトを手伝うようにお願いをする。

伝えるべきことを過不足なく伝えるために、限られた時間内で建築模型を作れる会社に必要データを送り、馴染みのパース会社に重要なパースを厳選して依頼し、残りのパースはイン・ハウスで作成すべく視点と見せるべきものを決めて5人がかりでフォトショップ作業の割り振り。何人は模型、パース、印刷と、常に状況を把握して連絡を取り合うことになる。

そんなことをしていたら、週末を目前とした平日も12時を越えての帰宅が当たり前で、プレゼン日を明日に控えた日曜日の夜に、まずはパートナーのマが模型とプレゼンボードを持ってプレゼンが行われる上海に飛んで、月曜の朝一の便でプロジェクト・アーキテクトのイタリア人と二人で最終のプレゼン資料を持って上海に入る予定となる。プレゼンが朝の10時だからということで、万が一に飛行機が遅れた場合を想定し、最終ができた時点でメールでも送信しておく。

やっかいなプレゼンボードはA0サイズなので、印刷に一枚1時間ほどかかり、飛行機の時間から逆算してどの時間にはすべてを印刷会社に送らなければいけなくて、テスト印刷のチェックの為に、担当者自身も印刷会社に見に行かせて問題があれば、そこでの微調整となる。

それぞれが目的を理解し、やるべき事を把握して、一つの生命体の様に動かないければ終えることができない非常に厳しい状況の中、その緊張感を共有していくうちに、なんとわなしにチームとしての一体感が生まれてくるのは不思議なもので、それぞれがそれぞれを助けようとする姿に、かつて自分達もザハの事務所で同じく締め切りの追われていたのを思い出す。

これだけ大変な締め切りを過ごすのは、ある種嵐の中を歩くようなものだが、不思議なことに同じ事務所の中にいても、他のプロジェクトのチームに属していたら、となりのプロジェクトが嵐を経験しているというのはなかなか伝わらないものであり、徹夜やプレゼンの後に死んだように寝ている間に、なんであのチームの皆は今日は出社してないんだろう?とちょっと不思議に思う程度である。

そんなプロジェクトが6つや7つも平行していると、各チーム・メンバーの様に締め切り前のハードワークで燃え尽きて、一日二日を回復に費やす。なんてことが許される訳もなく、オフィスに居ない時間だけ各プロジェクトでやらなきゃいけないことが進まずに、宿題として溜まるだけならば、チームのみんなと同じくらいプロジェクトに身体を浸しながらも、その中でも適度な「間合い」を保ちながら、他のプロジェクトのスケジュールを「想定」していく他道は無い。

ストレスというのは乗り越えない限り無くならないのであれば、できるだけ早くそれを乗り切る能力をつけてしまう方がいい。

そんなことを思いながら、明日の上海に想いを馳せる。

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