2016年2月12日金曜日

大分県立美術館(OPAM) 坂茂 2015 ★★★★


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所在地  大分県大分市寿町
設計   坂茂
構造・設備  Arup
ランドスケープ オンサイト計画設計事務所
竣工   2015
機能   美術館
規模   地下1階・地上4階
別名  OPAM(オーパム)
建築面積 4, 354m2
延床面積 16,817m2
構造   S造・一部RC造(免震構造)
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2004年 金沢21世紀美術館 SANAA
2004年 地中美術館 安藤忠雄
2006年 青森県立美術館  青木淳
2008年 十和田市現代美術館 西澤立衛
2010年 ホキ美術館 日建設計
2010年 豊島美術館 西澤立衛
2015年 大分県立美術館(OPAM) 坂茂

21世紀に入ってから続いた各地での新しい現代美術作品を展示する美術館の建設。世界を舞台に活躍する有名建築家がコンペを勝ち取り、新しいアートと社会との関係を空間を使って顕在化しようとする試みが地方都市を舞台にして行われてきた。そしてその流れの先としてここ数年でもっとも注目された美術館コンペがこの大分県立美術館。

多くの募集案が寄せられたようであるが、その中から勝ち残ったのは、まさに2015年にプリツカー賞を受賞し、世界の巨匠としての名声を確固たるものにした坂茂。ネットで見るだけでは代名詞ともなっている木格子を使った複雑かつ大仮構となっている屋根以外は、非常にシンプルな箱型であり、上記の美術館が派手に競い合った新しい空間の関係性がなかなか読み解けない為に、ぜひとも現地で自分の身体で体験したいと思っていた建物である。

21世紀美術館もそうであった様に、敷地が市の中心地に位置していた学校施設の跡地。金沢の場合は旧金沢大学付属中学校跡地を敷地であり、こちらの大分の場合は旧厚生学院跡地。ともに長く市の教育文化の重要な位置を占め、都市の風景を作ってきたある広さを持った学校という利点を活かし、「市の中心部」であり、「余裕を持った広さを持つ」敷地であることから、アクセス我良く、かつ美術だけではなく社会に開かれ、市民が多様なかかわりを持てる場所としての美術館という新しい時代の美術館の在り方を求められたプロジェクトでもある。

市民にとってもそうであるが、アクセスが良いというのは、外部から来る旅行者にとっては非常にありがたい。美術館を訪れるだけで半日から一日かかってしまう郊外に位置するのではなく、駅前施設の一部として、軽くお茶でもする感覚で気軽に立ち寄れてしまう。むしろ美術館に用はなくても、ただ通り道として人が中を抜けていったり、待ち合わせ場所として内部のカフェやショップが使われる。そんな使われ方をされているのが、良く見て取れる。

結論から言うと、非常に素晴らしい美術館である。何よりもここに学校施設があったという時を想像してみても、明らかにこの美術館がある現在の風景のほうがより周囲との関係性が活発になり、より人の行き来が促進され、都市の中に散らばっていたであろう活動がこの美術館の中で行われるようになり、それらがさも自然な風景として建物が背景となっている。決して派手なジェスチャーは必要とせず、都市をより良い場所になる為に確実にこの美術館が寄与しているということが感じ取れる。風が流れ、人が漂い、光が溢れる、とても心地のよい空間である。

前面道路を挟んで向き合うように位置する既存のiichiko文化センターとは、建物の一部としてデザインされたペデストリアン・ブリッジで繋がれ、文化空間が向き合うことで道路までも取り込むような都市空間を作り出し、非常にシンプルな矩形の箱の長辺は大型水平折戸で開放でき、人が自由に中を通り抜けられる空間としているのも、この敷地と周辺環境を見ると正しいアプローチのように見える。

また常設展示を3階部分に持ってきて、1階部分はフレキシブルにレイアウトを変えられる多機能展示室とミュージアムショップやラウンジが高い可変性を保ちながら配置されている。この可変性を空間的に成し遂げ、人が気軽に通り抜けられるように思い構造体で邪魔をしないように、どうやって軽やかな空間を成し遂げるか、それに多くの時間が費やされたようであるが、これは正面玄関から導かれるようにしてエレベーターに乗って到着する二階でも、太い柱は一本も見えず、何とも儚げな細い柱だけの姿からも分かるように、全体を外周にそった構造体で持たせ、3階床部分に巨大なトラスを作り出し、そこから2階床を吊ることによって、軽やかな2階の細い柱と、1階部分の可変性の高い無柱空間ができているという訳であり、非常にシンプルに見える3層のボックスは、見事に各階ごとに構造的表現を変え、訪問者にとっては印象の違った空間として体験されるわけである。

特徴的な段ボール紙を使った二階のカフェや、竹細工をモチーフにした木格子による3階のうねる屋根の表情など、フォトジェニックな場所に目が行きがちであるが、この建物の肝はこの全体構成にあり、それが見事にこのプロジェクトの根本となる都市的な解答に合致している。ということが、この案がコンペを勝ち抜いた大きな要因なのだと勝手に想像する。

ちなみにコンペの二次審査に残った各案の詳細は下記のホームページで見ることができる。


都市において重要な場所となり、風景の一部として20年30年と残っていくこのような文化施設をいつかは我々も日本のどこかの都市で手がけてみたいと思っているだけに、プロジェクトが時代の要請に応え、都市のアイデンティティを持ちながら、機能的な要求を満足させ、そして建築として新しい試みを成し遂げる。そのような高度な内容を見事に建築として纏め上げる技能はどれほどのものなのかと、建物を訪れた後にコンペの過程を遡りながら、各案が何を考え、どのような解法を提示したのかを見ていくのは、ある種コンペに参加するよりも多くのことを学べるだろうということで、各案をじっくり見てみることにする。

情報の時代である現代。ある意味怖いなと思いながら、このような行政施設の選定プロセスがすべて公開されてしまい、設計事務所が何人ものスタッフが何週間、下手をすれば何ヶ月多くの時間とエネルギーを注ぎ込んだ提案書がこうして、簡単に見えてしまうという事実に驚きながらも、提案案を見ると、なるほどそれぞれが何を考えているか、そして審査員側がどういう意図で残したのかが徐々に見えてくる。そして最終講評を見て、改めて各案を見てみると、やはり最優秀として選ばれた案は明らかに頭一つ抜けているという印象である。

この段階では3階の天井を多く木格子のうねる屋根はデザインされていなかったようであるから、選定後に案を練り直していく過程において作り上げられていったのだろうと想像する。

それにしても、提案の段階から、これだけ外に開かれ、市民が当たり前の日常の場として足を運ぶそんな風景として都市に溶け込むような場所となるのをしっかりと見据えて、どこまで攻めるか、どこで止めるか、どこに集中するかを明確に分けて戦うその戦略まで含め、世界中で多くの建物を手がけてきた設計事務所であり、それは同時に世界中の様々な場所で異なる文化圏のクライアントと社会に対してコミュニケーションを重ねてきたその積み重ねの分厚さ。それを感じながら建物を巡ることにする。











































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