2016年2月4日木曜日

Grotto 芦澤竜一 2009 ★★


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所在地 兵庫県芦屋市
設計   芦澤竜一
竣工   2009
機能   商業ビル
規模   地上5階 地下1階
建築面積 322m2
延床面積 1431m2
構造   鉄筋コンクリート造 一部鉄骨造
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関西を拠点とし確実にその存在感を高めている印象のある芦澤竜一。横浜出身で早稲田にて建築を学んだが、その後大阪の安藤忠雄事務所にて勤めることをきっかけに、独立後も大阪を拠点として建築活動を展開しており、いくつかの作品が「訪れてみたいな」と思うリストに入っていた建築家である。

そして作品があるのは日本有数の高級住宅地というイメージの芦屋市。神戸や大阪のように都市化が進むわけでもなく、かといって田園風景が広がるわけでもなく、のっぺらな住宅地がダラダラとスプロールするなく、しっかりと計画・区画された住宅地が、市の条例によって敷地を小分けにして、小さな家が密集するように大衆化せずに、しっかりと住みよい街というイメージを保つ努力の甲斐もあり、東京の田園調布などと並び、全国的にも有数の高級住宅地として名を轟かしている。

田園調布は渋沢栄一がエドワード・ハワードの「田園都市」の理念に共感し、都市と田園生活の両方のメリットを兼ね備えた都市型住宅地を目指して作り上げられ、都市というものは骨格がしっかりしていれば、長い年月でも壊されることなく生き残ることを見事に証明しているエリアであるが、こちらは北は六甲山が聳え、南に大阪湾へ続く緩やかな傾斜地に南の海に向けての眺望を確保しながら、香港の九龍半島やそ香港島の白人専用街区をモデルにして都市計画が作られたという。その中でも特に高級住宅街「六麓荘町」が有名らしく、小説でも谷崎潤一郎の「細雪」や、山崎豊子の「華麗なる一族」といった物語の舞台にもなっている街である。

東京に残る、江戸の御屋敷を源とする高級住宅街、たとえば紀州徳川家の下屋敷を元にした渋谷の松濤。伊達家や南部家の下屋敷を元とした麻布などの、「アースダイバー」で描かれるような地形の力を見せる住宅街の流れではなく、あくまでも明治以降の都市計画の学問から生まれた計画都市。建築に身をおく者として、その街並みはぜひとも一度見てみたいと思っていた場所である。

この街で目指すもう一つの建築である芦屋市民センターもすぐそばにあり、車を止めて徒歩で実際の場所を探すことにすると、少し歩いた場所に切り立った崖のように現れるコンクリートの量塊をすぐに見つけることができる。「小さな洞穴」というような意味を持つ「グロット」と名づけられたこの建物は、幹線道路沿いに建蔽率一杯に建てたのではないかと思うほどに巨大なスケールをもって現れる圧迫感を持ったコンクリートの塊に、大小異なる正方形の開口部が開けられ、部分的にガラスが嵌め殺しで内部空間に接している部分と、開口部がそのまま外部につながりその後ろに半屋外空間を持つ黒い影の二つの表情を異にする開口部がリズムをつけている。

やはり安東忠雄事務所出身者ということで、コンクリートを利用する場合は、どうしても新たなる意味づけを意識するものだろうか、梁を逆さにして天井面から構造の表現を消し去って、がらんとした表情を作り出したり、いろいろな手法を用いて、建築が機能する建物としてまとってしまう様々なスケールをあらわす要素を排除しようとする意図を様々なところで感じることができる。

複合商業施設としてクリアしなければいけない様々な条件がへばりついていたプロジェクトであるのは容易に想像できるが、それでもある挑戦を成した痕跡がこれだけ見えるのは、強い志を持って設計に向き合った結果なのだろうと、強い納得感を感じで次へと向かうことにする。













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