2014年3月26日水曜日

ハルビン・オペラハウス MAD Architects 2014



仕事のことを書くにはどうも近視眼的になってしまうので、できることなら避けたいのと思っているが、流石に少しは仕事の内容を紹介しておくことも、何かの役に立つのではと思わない訳でのないので紹介しておく。

現在共同主宰するMAD Architectsが設計を手掛けるプロジェクトの中で、最も重要な位置を占めるプロジェクトの一つにあたるのが、2014年、今年の末に竣工を予定している、中国北部黒竜江省の省都・ハルビン市の北部に建設中の、ハルビン・オペラハウス(Harbin Opera House)。

2010年の年初から始めたからすでにまる4年が経ち、5年という時間を持って竣工を迎える何とも息の長いプロジェクト。

オペラハウスという都市にとっても文化を支える大きな意味のある建築物なので、美術館や図書館の様に、どこの地方都市にも一つある、というようなタイポロジーではなく、その維持と運営を賄うだけの公演を行い、それに見合ったチケット代を支払って鑑賞しにくる観客がいなければ、オペラハウスは維持できない。

その為に、必然的にかなり大都市のみに持つことが許される建築タイポロジーである。オペラハウスと言われイメージされる世界の都市でも、シドニー、ウィーン、ニューヨーク、パリ、ロンドン、サンクトペテルブルクなど、やはり名だたる大都市が上がってくる。

日本に目を向けると、オペラの上演を可能とするサイド・ステージとバック・ステージを持つものとすると、

新国立劇場(東京都渋谷区) 1997年 設計;柳澤孝彦
よこすか芸術劇場(神奈川県横須賀市) 1994年 設計;丹下健三
アクトシティ浜松(静岡県浜松市) 1995年 設計;日本設計
まつもと市民芸術館(長野県松本市) 2004年 設計;伊東豊雄
富山市芸術文化ホール(富山県富山市) 1996年 設計;久米設計
愛知県芸術劇場(愛知県名古屋市) 1992年 設計;A&T建築研究所
滋賀県立芸術劇場 びわ湖ホール(滋賀県大津市) 1998年 設計;佐藤総合計画
兵庫県立芸術文化センター(兵庫県西宮市) 2005年 設計;日建設計

となるらしい。東京、名古屋、神戸は、上記のオペラハウスという文化施設を都市として維持するためには、チケット代として維持費を分担し負担する文化度の高い多くの市民が必要である、という流れで納得できる。

そう考えると、横須賀、浜松、松本、富山、大津などではどれくらいの人口で、どれくらいの人が足しげくオペラハウスに通うのかと気になったので各都市の人口を調べてみる。

横須賀市 408,934人
浜松市 791,513人
松本市 242,834人
富山市 419,240人
大津市 341,713人

浜松の人口がこれだけ多いは意外だったが、オペラハウスを持つ都市の基準人口がどれくらいなのか気になる数字であり、これらの市でオペラハウスの施設がどのように現在使われているのか気になるものである。

また松本と兵庫以外は、すべてが90年代というバブル時代に計画が進められた公共施設なので、その当時の想定と随分ずれてきている現在の差異がどのようにこれらの施設に影響を与えているのかも興味深いところである。

とにかく、市区人口は587万人、都市圏人口は1000万人を超す大都市と呼んでよいハルビン市にできるこのハルビン・オペラハウス。コンペから参加し、そのコンペを勝ち抜き、様々な困難を経験して現在最後の外装材の仕上げと、内装工事が進んでおり、規模が規模だけに、多くの部分を実際にモックアップと呼ばれる、1対1で実際の寸法で建物の一部を作ってみて納まりや素材、照明などを確認していく作業に追われている。

建設中なのでできるだけ情報を外に出さないように心掛けているが、やっとプレス・リリースできるようなところまで来たので、一部の現場写真も建築系ニュースサイトにアップされた。

Harbin Cultural Center / MAD Architects

シドニーの様に、街の誇りとして語り継がれ、世界から人を引き付けるようなオペラハウスになるかどうかは、この半年にかかっていると思っている。音響という身体に直接的に働きかける特殊な建築タイポロジーなだけに、実際に触ってみて、近寄ってみてはじめて分かる空間性。それを実現できるように、今まで費やしてきた時間とエネルギーを無駄にすることなく、手の痕跡が多く感じられるような内部空間を作り出せるように、あと半年を過ごすことにする。





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