2014年3月19日水曜日

「コミュニケーション力」 齋藤孝 2004 ★★★★

建築という極めて「コミュニケーション」が多くの地位を占める職業についていると、日常の中で様々な人と接することになる。その中には、自分の思っていることだけを、バァーーッと話して、あたかもそれが理論的で的を得ていて自分は偉いんだと満足げな表情をしているような人を見かける。そんな時にこの本を手にすると、「なるほど」と何度も頷くことになる。

言葉を介するということは、言語を介するのとはレベルが違う。相手の文化的バックグラウンドや、過ごしている日常で接している人々の教養レベル、ボキャブラリー、文脈力、構成力、全体を捉える能力、どれくらい本を読んでいるか、どれくらい勉強しているか、どれくらい世間に対してアンテナを張っているか、そんなことを判断しながら、その相手との会話に適した内容で、語彙を選び、散らし方を調整しながら会話を進めること。

ある分野の職業的能力が高いからといっても、それはコミュニケーション能力が高いとは一概に言えず、自分の分野に関しては、長い年月をかけてここまで理解できるようになったということをしっかりと認識し、門外漢の人にレベルを落とすことなくわかりやすい言葉で伝えることができつつ、自分の分野以外のことにもある程度の基礎知識を入手する努力はしながらも、それ以上の専門性の高い部分に関しては、想像力と自分の分野で培ったきた経験を駆使して、相手のレベルがその分野でどれくらいのものかを探りつつ、徐々に把握していく。

門外漢の人にあたかも専門性が高いというように装うことは簡単であるが、本当のプロフェッショナルであれば、掘っても掘っても底が見えないくらいの知識の海を感じさせるべきであり、同時に「これだけ勉強している人ならまちがいない」と相手を安心させるべきであろう。

専門分野において、自分の立ち位置と目指すべき高みへの距離感。それをズレることなくしっかりと把握することは、同時に新たに接する人がどんなに違う分野に属していようとも、その人がその分野でどのような立ち位置にいるのか、そしてどのような高みを目指しているのかを図るうえで、大きなズレをもたらさないようにしてくれる。

だからこそ、文化レベルの高い人と話す時には相当な緊張感を感じることになる。自分の無知を知られ、うまく会話を紡げないのではという恐怖。しかし本当に教養レベルの高い人と話すと、うまくダンスをリードしてくれるかのように、会話に適切なフレームを与え、「今、何が会話の焦点か」を明確にして進めてくれる。そして自分でも曖昧にぼんやりと描いていたイメージに対して、うまく言葉を当てはめてイメージを明確化してくれる。そんな会話は非常に心地が良いものである。

会話力のある人、ただ頭がいいだけでなく、相手との会話の中で本人すら思ってもいなかったような新しい意味を与えてくれるような喜びを伴った会話に参加させてくれるような人。誰もがそんな人との会話の時間はとても楽しいものだと理解している。

そういう人は年齢を重ねれば到達できる訳でもなく、やはり人生の中で常に意識を持って会話を重ねていくことでしか辿りつけない。

多くの人と接していればいるほど、そのような会話力のある人というのが如何に貴重な存在かも理解している。そういう人と日常の中で同等の関係を保つためには、自分も相当な努力を積み重ねなければならず、大概はその不一致の為に、学校で先生に授業という立場で授業料を支払い会話を共有させてもらうか、それとも夜の街の様に高いお金を払って会話の時間を買うことになる。

大切なのは、自らの専門性を深めつつ、それ以外の分野の基礎構造を理解する横へのい広がりをもって総合知を獲得しながらも、多種多様の人と会話をしながら楽しみつつも技を磨いていくしかないかと思われる。その為にはなんといっても、人への興味を常に持つことが大切であろう。
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第一章 コミュニケーション力とは
―文脈力という基本―  
コミュニケーションとは意味や感情をやり取りする行為
やりとりする相互性があるからこそコミュニケーションと言える
人間は感情で動くものだ
同時に感情面での信頼関係を培う事のできる人は、仕事がスムーズにいき、ミスもカバーしやすい

/「感情」と「意味」の座標軸
恋人同士という関係においては、意味を常に生産していくような関係が求められているのではなく、感情を確認しあい強固にしていくことが重要なのである。

/ディベート乱用の危険性
本当に求められている能力は、相手の言いたいことを的確に掴む能力である、要約力
クリエイティブな対話 相手を言い負かすだけの議論は、一見はなばなしいようでも生産的ではない
何かの価値を押し通そうとしているというのが実情

/クリエイティブな関係性
新しい意味がお互いの間に生まれる
大切なのは、今ここでこのメンバーで対話をしているからこそ生まれた意味がある。
意味に日付と場所を書き添えることさえできる
目的は、一つでもいいから、具体的なアイデアを出すこと
自分一人では思いつくことのできなかったことを思いつく
触発

/自分と対話し言葉を探す
文章を書くという作業は、自分自身と対話する作業である
言葉にすることによって、感情に形が与えられるのだ
現在流れている会話の流れをひたすらつないでいるだけの会話もある
相手と話している文脈は維持しながらも、自分自身の経験値の深みに降りていく。この二つの作業を同時に行う能力が、対話力である。
相手の経験世界にまで思いを馳せることだ。

/「ていうか」症候群
話題を全く変えてしまうのだ
それまで相手の話していたことと全く関係のないことを話し始める
お互いに言いたいことだけを言う
自分の話したいことを話すほうを皆が選択している
誰でも自分の話をしたいからだ
この癖がついたままで、友達以外の人と話をする状況になると問題が起こる
相手と自分との間にできるはずの文脈を軽視、ないしは無視する。
深まりのなさ、自己中心、話せる相手の範囲の狭さ
自分の身の回りの情報を伝え合うだけでは、コミュニケーション力は向上しない

/文脈力とは何か
文脈を的確に捕まえる力
思考をつなげて織物のように織りなしていく力
文脈力があるかないかが、文章を書く上で最も重要な分かれ目である

/会話で迷子になる
会話における文脈は二つある
一貫性があるかないか
お互いの発言がきちんと絡み合っているかどうか
話の分岐点には、必ず目印がある。それは当然、言葉だ。
戻るべき主流などはなかったという会話を、おしゃべり
「散らす」と「戻る」

/文脈力のレベル
レベルにははっきりとした差がある
素人でもキャッチボールはできる
プロ野球選手同士

/メモをとりながら会話する
会話の最中にメモをする
文字こそは、文明を加速させた一番の要因である

/人間ジュークボックスにならないために
お互いの会話を絡ませることができているかどうか
独りで話している間はまとまな話をすることのできる人の中にも、相手の発言と自分の発言とを絡めて話すことのできない人は意外に多い
すぐに自分の話をし始める
人の話を途中で遮る
人が使った言葉をうまく使いこなすことがない
相手が変わっても同じエピソードを繰り返し話す人がいる
相手の話したいことと絡んでいない

/誰とでも会話の糸口を見つけられるか
話す相手が幅広い
老若男女と接する機会が多い
誰とでもすぐに世間話ができる。これは重要なコミュニケーション力である

/コミュニケーションするからこそ家族
家族においては、生産性よりも、感情が交流することのほうが重要なのである。
コミュニケーションしたいという欲求


第二章 コミュニケーションの基盤
―響く身体、温かい身体―
コミュニケーション、響きあいである
使わなければ、力は落ちていく

/基本原則その4 相槌を打つ
/『浮世風呂』の身体コミュニケーション
それを反復し、技にする。 これが学習の王道である
世阿弥のいう、「離見の見」は、観客側から見える自分の姿を役者が意識するということ
自分を客観視する力
「演劇的身体」
エネルギーは出せば出すほど湧いてくる

/雰囲気の感知力と積極的受動性
空気を感じ取るだけでは不十分だ。感じ取りつつ、方向性を修正していくことが求められる

/沈黙を感じ分ける
不毛な沈黙 充実した沈黙
モーツァルトのピアノ協奏曲第20番第1楽章
マックス・ピカート つねに第三社が居合わせている 沈黙である。
「沈黙の世界」


第三章 ミュニケーションの技法
―沿いつつずらす―
沿いつつずらす
要約力が武器
自分がそれを再生しなければいけないと思って聞いてはいない
実際にできねば無意味
自分が再生するのだという前提
ほとんどの知識が伝授可能になると考えている
知識の伝授が大きな割合を占めている
人の話を聞いたという証は、その話を再生できるということである

/言い換え力
言い換え力
理解したというレベルと、言い換えることができるレベルは、別である
奥田英朗「空中ブランコ」
精神科医が患者に話を聞きましょうよと言われるのは、読んでいて笑える

/人間理解力
人間理解力のある人は、いろいろなものが見えている。なぜこの人はこういうことを言うのか、なぜこんな言い方をするのか、といったことが分かってくるのだ。

/コミュニケーションは誰とでも可能である
たくさん読まなきゃ、ちゃんとした話はできないんだ
柱は読書によって培われる
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■目次  
第一章 コミュニケーション力とは
―文脈力という基本―  
コミュニケーションとは
/「感情」と「意味」の座標軸
/ディベート乱用の危険性
/クリエイティブな関係性
/インスパイアとインスピレーション
/自分と対話し言葉を探す
/「ていうか」症候群
/文脈力とは何か
/会話で迷子になる
/三色ボールペンのメモ術
/マッピング・コミュニケーション
/人間ジュークボックスにならないために
/誰とでも会話の糸口を見つけられるか
/いきなり本題から入る
/コミュニケーションするからこそ家族
/親子間、きょうだい間での手紙
/和歌のやりとり
/連歌ー座というスタイル
/回しが気で作文をする
/弁証法的な対話
/セックス・コミュニケーション


第二章 コミュニケーションの基盤
―響く身体、温かい身体―
響く身体、響かない身体
/基本原則その1 目を見る
/基本原則その2 微笑む/基本原則その3 頷く
/基本原則その4 相槌を打つ
/『浮世風呂』の身体コミュニケーション
/連座ー自我の溶かし込み
/外国語学習と身体
/ウォーキングの効用
/ハイタッチとスタンディングオベーション
/[fantastic!]と拍手
/体温が伝わる方言
/癖と癖がコミュニケーションする
/練習問題
/演劇的身体でモードチェンジ
/雰囲気の感知力と積極的受動性
/沈黙を感じ分ける


第三章 ミュニケーションの技法
―沿いつつずらす―
沿いつつずらす
/偏愛マップ・コミュニケーション
/要約力と再生方式/言い換え力
/「たとえば」と「つまり」
/会議を運営するコツ
/ブレイン・ストーミングのコツ
/ディスカッションのコツ
/メタ・ディスカッション
/プレゼンテーションのコツ
/コメント力
/質問力
/「ゲーテとの対話」
/相談を持ちかける技
/ズレやギャップをあえて楽しむ
/会話は一対一ではなく多対多
/癖を見切る
/人間理解力
/過去・未来を見通す
/コミュニケーションは誰とでも可能である


あとがき
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