2014年3月1日土曜日

コンサート 「Daniel Harding & Yuja Wang and London Symphony Orchestra Concert」 NCPA 2013 ★★★★

今夜のコンサートはいつもと少し違う。というのはいつもの様にメンターのお勧めでチケットを購入したわけでなく、オフィスのスタッフであるイタリア人の勧めで調べたコンサート。

自分がちょくちょくオペラハウスに足を運び、音楽を聴きに行っているのを知っている彼が突然デスクにやってきて、「今度くる中国人のピアニストは、今まで自分が聞いたラフマニノフの演奏で一番良かった」と教えてくれる。「かなりチケットは高いけどもし都合が合えばぜひ見に行ってみては?」と勧めてくれる。

父親が大学教授で、妹が音楽をやっているという相当に文化レベルの高そうな家庭で育ったイタリア北部出身の彼。そんな風に勧められると、この気持ちを無駄にすることはなかなかできない。そして調べるとなるほど680元のチケットしか残っていない。日本円で1万円を超えてくる・・・。妻にも聞くと興味があるというのでそうなると二人で2万円超えかと暫く悩むが、この機会を逃したら一生効くことなく終わるだろうと、「これも出会いだ」と決心しチケット購入。

そんなきっかけで行くことになったコンサート。こんな風に自分が何を好きか知っている人が周りにいて、しかもそれを共有でき、なおかつ自分の素晴らしいと思うものを進めてくれる。極めて個人的体験である音楽を薦めて貰える、そんな贅沢なことは無いかと思う。そして非常にありがたい。いつか自分も「あのピアニストは素晴らしいからぜひ足を運んだほうがいい」と言える様なレベルまで早く達したいものである。

そんな訳で今回のコンサートは「女王陛下のオーケストラ」と呼ばれ、エリザベス2世が名誉総裁(パトロン)に就いているというロンドン交響楽団( London Symphony Orchestra)。かつて住んでいたロンドンを拠点にするオーケストラだが、当時には音楽を聴きに出かける習慣が無かったことが悔やまれる。今ではあの、「バービカンセンター」を拠点にしているという。

そんなオーケストラを率いる指揮者は、若いイケメンのイギリス人、ダニエル・ハーディング(Daniel Harding)。1975年生まれと言うことだから、40歳手前という若さ。ネットで調べると、2012年4月から、軽井沢大賀ホール初代芸術監督の就任となっている。これは軽井沢に足を運ぶ良い言い訳が一つ増えたことになる。

そして今回のゲストは北京出身のこれまた若手ピアニスト、ユジャ・ワン(Yuja Wang、王羽佳)。イタリア人のスタッフが言っていたのは、この女性ピアニストの演奏が素晴らしいということ。相当なエリート音楽家庭で育ち、若い頃からカナダに渡り、今はNYを拠点に世界中で活躍しているようであるが、そんな彼女の凱旋公演となる訳である。

ネットでも色々紹介されているように、その若さが溢れんばかりにかなりのボディコンというか、ミニスカートで登場することでも知られているらしい。もちろん今回も真っ赤なタイトなドレスで登場してきた。そしてもう一つ特徴的なのが、演奏後の挨拶で胸に手を当て会場を見渡し足を交差させて、一気に頭を深く下げるお辞儀の仕方。頭が「ガクン」と音を立てるくらいの勢いである。横を見ると、やはり妻も「・・・」という表情でこちらを見ている。

そしてプログラムはゲストのユジャ・ワンを迎えた前半に、まずはロシアの作曲家であるセルゲイ・ラフマニノフ(Sergei Rachmaninov)作の「ピアノ協奏曲第3番ニ短調作品30(Piano Concerto No. 3)(1909年)」。ピアニストであったラフマニノフ作ということもあり、相当に高度な演奏技術を要求されるピアノ協奏曲だという。技術的・音楽的要求に於いてピアノ協奏曲の中で最難関の一つとも言われており、若いピアニストが挑戦するにはもってこいの曲である。

そんな高度で高速な演奏を要求するだけあり、演奏の途中でユジャ・ワンの指がまるで何本にも増えたような錯覚を覚える場面が何度かあった。それくらいやはり凄い迫力の演奏である。

そして次は同じくロシア出身のイーゴリ・ストラヴィンスキー(Igor Stravinsky)作曲の
「ペトルーシュカ』 (Petrushka)」。ストラヴィンスキーの三大バレエ音楽の一つの作品である。

内容はロシア版のピノキオで、正真正銘の人間ではないにもかかわらず真の情熱を感じ、そのために人間に憧れている感情を表現する。ペトルーシュカは時おり引き攣ったようにぎこちなく動き、人形の体の中に閉じ込められた苦しみの感情を伝える曲だという。これにはオリジナルの1911年版と改訂された1947年版があり、今回はその1947年版。

ゲストが退場し、幕間を挟んだ後半はまたまたロシア出身のセルゲイ・プロコフィエフ(Sergei Prokofiev)作曲による、「ピアノ協奏曲第2番(Piano Concerto No. 2)」。

そして最後はオーストリア出身でウィーンで活躍したグスタフ・マーラー(Gustav Mahler)作曲の「交響曲第1番(Symphony No. 1)」。マーラーの交響曲のなかでは、演奏時間が比較的短いこと、声楽を伴わないこと、曲想が若々しく親しみやすいことなどから、演奏機会や録音がもっとも多いという。

そして何より驚いたのが、アンコールに演奏されたのがまた「スターウォーズ」のテーマ曲。「先週と一緒じゃないか・・・」と思いながらもオーケストラの面々は、「それ、盛り上がるだろ?」とかなりのドヤ顔。

「先週のオーケストラもやってましたよ・・・って」誰かオペラハウスの関係者が教えてあげればいいのに、と思うが、そもそもこの様なアンコールに何を演奏するかは、オーケストラ側からハコ側には伝えないのだろうから、そりゃ分かりっこないかと納得する。しかしこれはかなり珍しいことなのか、それともクラシック業界でスターウォーズが流行ってるのか?

ロシアにスターウォーズ。コンサートの中に散りばめられたキーワードたち。これはなにやら意味深なことだと思いながら素晴らしいコンサートを後にする。

ダニエル・ハーディング(Daniel Harding)
ユジャ・ワン(Yuja Wang、王羽佳)
セルゲイ・ラフマニノフ(Sergei Rachmaninov)

イーゴリ・ストラヴィンスキー(Igor Stravinsky)
セルゲイ・プロコフィエフ(Sergei Prokofiev)
グスタフ・マーラー(Gustav Mahler)



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