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第139回(2008年度上半期) 芥川賞受賞
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12回9(2003年上半期) ハリガネムシ 吉村萬壱(男性)
130回(2003年下半期) 蛇にピアス 金原ひとみ(女性)
130回(2003年下半期) 蹴りたい背中 綿矢りさ(女性)
131回(2004年上半期) 介護入門 モブ・ノリオ(男性)
132回(2004年下半期) グランド・フィナーレ 阿部和重 (女性)
133回(2005年上半期) 土の中の子供 中村文則(男性)
134回(2005年下半期) 沖で待つ 絲山秋子(女性)
135回(2006年上半期) 八月の路上に捨てる 伊藤たかみ(男性)
136回(2006年下半期) ひとり日和 青山七恵(女性)
137回(2007年上半期) アサッテの人 諏訪哲史(男性)
138回(2007年下半期) 乳と卵 川上未映子(女性)
139回(2008年上半期) 時が滲む朝 楊逸(女性)
140回(2008年下半期) ポトスライムの舟 津村記久子(女性)
141回(2009年上半期) 終の住処 磯崎憲一郎(男性)
142回(2009年下半期) なし
143回(2010年上半期) 乙女の密告 赤染晶子(女性)
144回(2010年下半期) きことわ 朝吹真理子(女性)
144回(2010年下半期) 苦役列車 西村賢太(男性)
145回(2011年上半期) なし
146回(2011年下半期) 道化師の蝶 円城塔(男性)
147回(2012年上半期) 冥土めぐり 鹿島田真希(女性)
148回(2012年下半期) abさんご 黒田夏子(女性)
149回(2013年上半期) 爪と目 藤野可織(女性)
過去10年、つまり2003年からの芥川賞受賞作家22人のうち、13人が女性作家。半数以上というのはまさに女性の強い時代を代弁するかのようであるが、その中にたった一人外国籍の作家の名前が。それがこの2008年度上半期芥川賞受賞作家である楊逸。
中国語のピンイン表記ではyáng yìとなり、ヤン・イーと呼ぶ。我々夫婦の中国語の先生も同じくハルビン出身で楊さんというので、ハルビンには楊姓が多いのだろうか?と思ってしまう。
中国で生まれ、中国で育ち、大学の途中で日本に渡り、日本語を学び、大学を卒業し、就職をし、そして小説を書き始め、芥川賞まで上り詰める。なんといっても帰国子女などではなく、大人になってから学んだ外国語で物語を綴ることまでに費やした多くの時間と努力に頭が下がる。
青春を中国と日本で過ごし、民主化の動きを高めた天安門事件とその後の経済発展を中国内部からと、中国の外から見た視点で描き、なんと言ってもスポットライトを浴びる有名な民主化活動家ではなく、群集の群れの中でひっそりと燃えるような情熱を心の中にともしていた名も無き学生に焦点を当てて、激動の時代の中国を描きだす。
同じ時代をいきながら、まったく違う時間を過ごす二つの国。その両方に生身で生きた作者だからこそ描けるリアルな視点。そしてその二つを繋ぐ尾崎豊の「I Lover You」。
生の篭った物語を書くためには、社会にどっぷりと根を張って生きる時間を過ごさないとならない。その為には、その社会の共通認識を理解し、自分なりに消化していないといけない。その理解を得るための語学力を身につけるには並大抵の努力では辿りつけない。
今も日々感じるストレスや向き合う困難の多くは、自分が外国人であることから派生する。語彙力を向上させても埋めることの出来ないギャップは、その社会で生まれ育ってこなかったことからくる生身の視点。教科書では決して身につけることの出来ない時代の雰囲気や、社会の常識。それを他言語において、二つの国をこれほどにリアルに描けるというのは、よっぽどの取材力があるか、自らの生きた経験によるものだろうと思わずにいれらない。
主人公の様に、どんな場所にいようとも、どんな仕事をしながら生きようとも、まっすぐに必死に生きている人間には、誰もがこんな自分だけの熱い物語を持って生きているんだと思わせてくれる一冊。
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