IFCモスクワで大きな都市計画のコンペを手がけている。オフィスで進行中の美術館やオペラハウス、高層マンションなどのプロジェクトと違って、何十年もかけて人々が生活し、仕事をし、人生の中の一ページを刻んでいく都市を作る計画である。
世界中に生まれてきた様々な都市。ローマや京都、ロンドン、NY、パリ、北京、シンガポール、東京などと様々な都市が歴史の中で生み出され、多くの建築家がまた都市の可能性を想像し多くのアイデアを描いてきた都市計画。
人々を惹きつけ、寄せ付け、低密度の田舎では享受し得ない高密度の都市の魅力。老いも若きも男も女も、誰もが自分の胸に夢や想いを秘めて都市へと足を運び、様々な出会いを繰り返し、嬉しいことも悲しいことも、故郷では見ることの無かった都市の風景の中で経験していく。
もちろん都市という巨大な生命体の様に、行政から経済、交通から環境まで様々な要因が複雑に絡み合って生み出され、そして使われる中で再度予測不可能に変化成長していくものであるだけに、FAR、密度、プログラム配置、都市交通、道路、都市軸、環境、熱、風、コミュニティなどなど、様々なことを想定して設計を進めていくことになる。
それらの全ては、どんな都市を理想とするかによってバランスが変わってくる。そこに都市の理論が生まれる。コンペの開始から提出までの4ヶ月。その間に歴史上に現われた様々な都市論を学び、その成功も失敗も学び、それを踏まえてネットの出現によって多くの前提が覆りつつある現代の都市にどのように新しい在り方を提示できるのか。一日一日、多くのことを学び取り、多くのことを試してみる時間が続く。
そんなタイミングで見つけたこの一冊。いい機会だからと手にとってみる。あまりに多くの議論が出され、試された60-70年代。世に存在する様々な職業の中でも恐らく最も真剣に都市がどうあるべきかを考えている建築家達が、一体に何を問題と考え、どういう手段を講じて、どのような都市の風景を求めてきたのか。それをざっくり復習するのには非常に適した一冊であろう。
特に日本の建築文脈においては、なかなか目にすることの無い「シチュアシオニスト」に1章を割いているのはロンドンのAAスクールにて建築を学んだ著者らしい視点であろう。
しかしどうしてもこれだけの内容を一冊で網羅しようとしたら、必然的に各項目に対する密度も薄くなり、都市理論の入門書、もしくはあとがきでも言うように、大学の低学年向けの講義の様な内容に留まるのはしょうがないことだろうと思わずにいられない。
講義であるからこそ、著者の都市に対する提案や理論は提示されず、徹底して20世紀後半に起きた都市に対する建築界での動きを紹介するのにとどめる。
コンペで自分達の信じる都市の在り方をデザインする数ヶ月の時間は、とてつもなく濃密に、そして真剣に都市の理論を理解し、自分達の考えを構築させてくれる。ARUPという世界トップのエンジニアとの議論の中で、自分達の計画の持つ弱さも理解しつつ、それでもどんな都市空間を求めるのかを明確にしてデザインを進めていく。
是非ともコンペが終わった暁には、このコンペで学んだことや集めた資料を整理しておけば、この本よりもより現代によった世界の都市計画の進行形を伝えられることが出来るのではと思わずにいられない。
----------------------------------------------------------序 都市の時代と都市の思想
第1章 近代都市計画とその限界
1-1近代都市
/1-2「田園都市」
/1-3「田園都市」の広がり
/1-4ル・コルビュジエと「輝く都市」
/1-5CIAMとアテネ憲章
/1-6近代都市整備の試み
/ほか
第2章 メタボリズム
2-1「メタボリズム」グループの結成とその背景
/2-2 「メタボリズム」の父としての丹下健三
/2-3 「メタボリズム」の結成
/2-4 菊竹清訓
/2-5 黒川紀章
/2-6 槇文彦
/ほか
第3章 アーキグラム
3-1《アーキグラム》誌
/3-2「プラグイン・シティ」
/3-3「ウォーキング・シティ」と「インスタント・シティ」
/3-4「アーキグラム」の成り立ち
/3-5 ロンドンの文脈
/3-6 レイナー・バンハム/ほか
第4章 クリストファー・アレグザンダー
4-1論考「都市はツリーではない」
/4-2「初めに都市ありき」との共鳴
/4-3ウィトゲンシュタインに見る理論と実践の関係
/4-4他の分野への応用
/4-5『パタン・ランゲージ』
/ほか
第5章 アルド・ロッシ
5-1アルド・ロッシの出自と実作
/5-2ロッシのドローイング
/5-3『都市の建築』
/5-4「都市的創成物」と「類型」
/5-5素朴機能主義批判としての「都市的創成物」
/5-6「場」の持つ重要性
/ほか
第6章 シチュアシオニストとニュー・バビロン
6-1「シチュアシオニスト」の成立
/6-2ギー・ドゥボールと『スペクタクルの社会』
/6-3「シチュアシオニスト」が提示した概念
/6-4「断片」
/6-5コンスタントの「ニュー・バビロン」
/6-6ヨナ・フリードマンの「空中都市」
/ほか
第7章 ロバート・ヴェンチューリとデニス・スコット・ブラウン
7-1ヴェンチューリとスコット・ブラウンの出自
/7-2『ラスベガスから学ぶこと』
/7-3テーマパーク都市ラスベガス
/7-4ラスベガスでのリサーチ
/7-5「ダックと装飾された小屋」
/7-6フィールド・ワークと記述の方法
/7-7商業施設の発見
/ほか
第8章 マンフレッド・タフーリ
8-1マンフレッド・タフーリの出自
/8-2建築史に専念した建築史家
/8-3マンフレッド・タフーリの論考
/8-4アメリカにおける都市計画
/8-5ロシア革命後のソヴィエト
/ほか
第9章 コーリン・ロウ
9-1コーリン・ロウの出自/9-2「理想的ヴィラの数学」/9-3コーリン・ロウの師:ルドルフ・ウィットコウアー/9-4「透明性」/ほか
第10章 デリリアス・グローバル・シティ:レム・コールハースと現代都市
10-1レム・コールハースの出自とAAスクール
/10-2「OMA」の設立
/10-3『錯乱のニューヨーク』
/10-4『S,M, L,XL』とシンクタンク組織「AMO」
/10-5『プロジェクト・ジャパン』
/10-6プロジェクトと都市の関わり
/ほか
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