2013年10月3日木曜日

「残火」 西村健 2010 ★★

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2010年日本冒険小説協会大賞
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東大卒で官僚を経て作家になり、不器用な男の生き様を描き続ける作者。

思いのほかに早く読み終えてしまった一冊のバックアップとして用意したあったので、飛行機の中、拘束される身体を感じながら読み始めると、一体誰が主人公なのかが良く分からない物語に徐々に引き込まれ、これまたあっという間に読みきってしまった一冊。

高倉健に捧げた一冊というだけあって、昼間に堂々と議員会館から闇献金の一億円を盗み出した犯人こそがこの物語の主人公である伝説の極道。何かどんでん返しがあるだろうと思わずにいられないほどの、その愚直な生き様。そしてその生き方を尊敬し、進む道は違えたが、今でも兄貴として慕う男と、かつて互いを尊重しながら対峙しあった元警官がその足跡を追い、北へ北へと向かっていく。

その途中にどんな障害があろうとも、ただ実直にそれを取り除き、見据えた目的のみを見つめながら足を進めていく。そんな不器用でありながら、人の心を打つ何かを発しながら北へ向かう男達。

主人公には決して多くを語ることをさせないでいながら、周囲の人間の反応をもってして、十分にその人柄を描きだす。自らに厳しく、根は優しく、そしてとことん強い男。それだからこそ皆に愛される。

この国はどこかで魂を売ってしまったんだろうと、今の社会を生きる人間なら誰でも感じている事実。

金がすべてか?
金ですべてが買えるのか?

そうではないと言っても、既に社会は拝金主義に適応し終えてしまい、誰もが金の魔力に平伏する。変わってしまったと嘆いても、もう戻せない不可逆の流れ。そんな時代に生き辛く感じる男は悔しいと思いながら、社会を変える決定的な一手を打った男を決して許しはしない。

男が命をかけてやり遂げないといけないことは、決して個人のエゴから心の叫びではなく、生きる道。任侠道に心を捧げた人間としての心の疼きに突き動かされるものであるべきだ。

北の大地の切り立った崖の先に消えた男の行方を想像しながらも、どっぷりと建築の道に入り込んでしまった自らの人生も、愚直なままにどこに向かっていくのかに思いを馳せずにいられない。

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