2013年10月18日金曜日

コンサート 「チョン・キョンファ(Kyung Wha Chung) バイオリン(violin) 」 NCPA 2013 ★★★★

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プログラム
ベートーヴェン:ヴァイオリン・ソナタ第5番 ヘ長調 「春」 Op. 24
グリーグ:ヴァイオリン・ソナタ第3番 ハ短調 Op. 45

モーツァルト:ヴァイオリン・ソナタ第27番 ト長調 K. 379
セザール・フランク:ヴァイオリン・ソナタ イ長調
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幾つになっても、ある分野に関して圧倒的な知識を持っていて、しかもそれを楽しんで生きている人から影響を受けるのはとても楽しいものである。そういうメンターを持つ人生は豊かだと思わずにいられない。

北京に住むようになってから知り合ったご夫婦のサンタクロースの様な容姿をしたスコットランド人の旦那さんはオペラや音楽といった方面への造詣がとてつもなく深く、残念ながら音楽を嗜むという高尚な家庭で育ってこなかった自分にとっては、聞いていてゾクゾクするなど心地のよさは理解できるが、音の細さや正確さなどといった鑑賞の仕方はいまだ良く分からないが、それでも「芸術の秋だ」と言わんばかりに、足しげく中心地のオペラハウス(NCPA 国家大剧院)まで通っては今シーズンのプログラムをチェックし、お勧めの演目を教えてくれる。

そんな訳で秋の夜長を少しでも楽しむために、彼らのお勧めからとまた以前から見てみたかった演目などいくつかをピックアップし、先日の日曜日にオペラハウス(NCPA 国家大剧院)まで電動車を飛ばしてチケットが残っているかと願いながら購入できた今日のコンサート。

本来は昨日もPinchas Zukermanというバイオリニストのコンサートを聴きにくるはずだったが、急にオフィスでクライアントさんを踏まえてディナーに行くことになり、そちらに顔を出すためにチケットを無駄にしてしまっていたが、「今日こそは・・・」と19時あたりにオフィスを抜け出そうと画策してはいたものの、金曜日ということもあり、毎月一度行われているオフィスでのハッピー・アワー。オフィスを去るメンバーへのフェアウェルと新しくオフィスにやってきたメンバーの紹介を兼ねた簡単なパーティーが突然行われることになり、「早く始まれ・・・」と心の底から願いながらも、インターン含め各スタッフがここでどんな時間を過ごしたかというスピーチに懐かしい時間を思い出しながら時間を見たら既に19:30・・・

スピーチも終えて、各人が好き好きにビールを飲みながらスナックを摘んでいる間を「オペラに視察だ!」とかけ抜けて、何とか間に合えと電動スクーターを飛ばす。

オペラハウス(NCPA 国家大剧院)について、地下の自転車置き場にスクーターを置いて中に入るが、残念ながら最初の曲が始まってしまっていてインターミッションまで入れられないという係りの女の子の言葉に従い、ホワイエに設置されているモニターで中の様子を伺うと、なかなか熱の入ったベートーヴェンを演奏しているようである。

さて、本日のコンサートだが、チョン・キョンファ(Kyung Wha Chung 鄭京和) という韓国人の女性ヴァイオリニストのコンサート。後ほど、スコットランド人のメンターから教えてもらった内容によると、何でも指の怪我によっての5年近いブランクを経て昨年から再度表舞台に帰ってきた有名ヴァイオリニストだという。ハッピーアワーの時にも韓国人のスタッフに彼女を知ってるか?と聞いたところ、「もちろん知っている。しかし10年前が彼女のピークだった」などと教えてくれた。

そう考えると、日本人ヴァイオリニストの名前を言われ、彼女のキャリアがどうなっているかなんてとっさに答えられるかと思うとなんとも自らの音楽的教養の低さにげんなりするが、今出来るのは一刻も早く中に入り、迫力のありそうな演奏を生で体験すること。

一時間弱でインターミッションとなり、一番安かった3階席の自らの席を確認し、コートを置いて友人夫妻に電話して階下で合流する。「建築家として生きていたら19:30に軽く軽食を済ませてプログラムを見ながら演奏を待ちわびる、なんていう日常はいつまでたっても成し遂げられないだろう」ととりあえず遅刻が個人ではなく職業に起因することを伝え、前半の感想を聞いてみると、「とにかくベートーヴェンが素晴らしかった。始めは拍手を止めない観客に対して機嫌が悪かったようだが、徐々に演奏も乗ってきたらしい」と教えてくれる。

後半もぜひ素晴らしい演奏を続けて欲しいと願いながら、後ほど再度ここでの合流を誓って自分の席へとかけ戻る。オーケストラと違って、ステージにピアノとその横に寄り添うように一人立つヴァイオリニスト。何百人もの観客の期待と視線を一手に受け止め、そして自らの身体を使って発せられる高貴な音色で彼らを唸らせる。

正直、こういうコンサートで何がいいのかはまだよく分からないが、それでもフランクはとても力強く、グイグイと会場を巻き込むかのようなダイナミックな演奏に久々にゾクゾクする感じを味わえた。その後、寄せては返す波の様に何度も出ては戻るアンコールの拍手と演奏。見た感じ機嫌も随分よくなってきたようで、笑顔で「では、シューベルトを」といいながら、日本人の自分にもCMで馴染みのある曲を披露しとても楽しめた。

そんなこんなを繰り返し、「これが本当の最後よ」と最後の1曲が終わった時にはすっかり会場は彼女の虜となっているのが感じられた。大きな大きな拍手の嵐の中に消えていく二人の音楽家。これはいいものを見せてもらったとなんとも言えない幸福感に包まれる。

荷物をまとめ、合流するために階下に下りていくと前方に見知った顔が。プラハ・フィルハーモニーの時にも一緒になった有名中国人建築家の知り合いであるURBANUSのワン・フイ(Wang Hui)。今回はお母さんと来ていたらしく、お母さんにも挨拶をさせてもらっていると、「VIPカードを持っているから安くチケットを買えるので、行きたい演目があったら教えてよ!」と声をかけてくれる。

「この時間にお母さんを連れてコンサートに来れる建築家も居るんだな・・・」

と少々感心しながら、それでもそのレベルになるには相当時間がかかりそうだと改めて思い直して二人に「良いコンサートでよかったですね」と挨拶をして別れ、知り合いの夫婦と合流する。

各々興奮気味に感想を言い合いながら、持って来てくれたプログラムを一緒に見ながら、次はどれに足を運ぶかと相談しようとするが、流石に11時近くなってしまっているので、改めて週末にディナーでもしながら相談しようということで別れ、頭の中で何度も音楽を復唱しながら靄がかかってきた天安門の前を電動スクーターで飛ばして家に向かうことにする。

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