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第13回(2011年) 大藪春彦賞受賞
第28回(2009年) 日本冒険小説協会大賞受賞作
『おすすめ文庫王国2013』 国内ミステリー第1位
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受賞歴を見てみると、明らかに何かあると思われる一冊。読み進めながら、どんなにつまらなく感じてもそれでも何かあるはずだと信じて最後までページをめくった一冊。最後にページを閉じた後に顔を上げて心の中に残ったのは何かを考えるが、どうにも理解できない一冊となる。
その設定はぶっ飛んでいて面白い。ある女がひょんなことからヤクザにつかまり、ボコボコにされ生き埋め寸前のところで買い手がついて売られていった先は殺し屋だけ客という会員制ダイナー。飛び切りうまいハンバーガーを出してやるのはこれまた元殺し屋の殺しも料理もトンでもない腕を持った男。
そこに訪れるのはこれまた曰くつきの、トンでもない性格と、俗世からはかけ離れた価値観を持った殺し屋達。それぞれが特別な技を持ち、とてつもなく高いプライドと、一般社会から遠く離れたその嗜好性を披露しながら物語は進む。
そんな訳で毎回飛んでもないキャラを作り出せば、それなりに物語の起こるフレームは出来ているので、そのキャラから発展させて話をつくることができる、なんとも連載にもってこいの設定。
増えるキャラに比例して、紡がれていくそれぞれの関係性。そして徐々に見えてくる外の世界。そんな訳でページ数を増やすのは他愛もないが、問題はぶっ飛んだ設定を成立させるためのディテールの作りこみ。
簡単に人を殺してしまうプロフェッショナルとして生き残ってきた殺し屋達。彼らの技と武器が、この本を成立させる肝であるだけに、そのリサーチに費やされた時間は想像に難くない。
一歩間違えれば、どこかの週刊マンがで連載されるような、同じパターンの繰り返しで毎週新しい敵が登場するものとなんら変わらなくなってしまうが、それをハードボイルドでまとめ、殺人を一つのプロフェッショナルとして描く為に、殺し方や武器の扱いに疑問を持たせないように懇切丁寧にしかもスピーディーに進めていく必要がある。
吐き気がするくらいに人を拷問をし、通常の感覚の人間が思う人を殺す事への感覚を剥ぎ取り、人の身体を人格のある生物としてではなく扱いながら痛みを与えていくその描写。異常殺人鬼についての著書がある著者だからこそ、そこに狂気とともにある種の快楽を描けるのだろうと想像する。
現実の世界でふと立ち止まり、何の制限もなく無茶苦茶な生き方が出来るとしたら何を思い描くか考える。
社会的生物である我々人間は、日常の中で様々な制限を受けて生きている。法律や伝統、習慣や経済性。性善説か性悪説かは別として、どんな時代のどんな人間も、人を殺しちゃいけないと頭の中にインプットされて生きている。その制限を外すことは、つまりは日常からの距離を稼ぎ、トンでもない風景を描き出す。
しかし、一見自由に見える登場する殺し屋達も、一般社会からの制限は受けていないかもしれないが、実のところまた別の制限を受ける事になる。ある組織に雇われ、自らの意思ではなく、誰かの意思にそって誰かを殺める。それも決して自由ではない。
自由によって得られる風景と、制限の中で楽しむ風景。
問題は自分がそこから見るかなんだと改めて思わされる一冊。
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