顔の広い友人を持っていることは非常にいいことだ。友人のドイツ人の知り合いで、ルクセンブルク大使館に勤めている人からのお誘いということで、ルクセンブルク出身のジャズ・カルテットのコンサートのチケットを希望者に用意してくれるというから、興味があるかと誘われる。
建築家といういつ仕事が終わるかてんで読めない生活をしていて、平日ということもあり、返事を渋っていたら、「なんでも随分有名で、普通に購入したら結構高いらしいし、夜の21時から開始だから大丈夫だよ」というので、名前を入れておいてもらう事にする。
ルクセンブルク出身のヴィブラフォン奏者パスカル・シューマッハ(Pascal Schumacher)率いるジャズ・バンドが 初の北京公演で愚公移山(yú gōng yí shān)で行われるという。
ルクセンブルク、ヴィブラフォン、パスカル・シューマッハに愚公移山。流石に普段馴染みのない世界に足を踏み入れようとすると、これまた馴染みのない言葉でに出くわす事になる。
さてまずはルクセンブルク。小さい国だが、とにかく金持ちというイメージしかなかったが、折角なので簡単に調べるとなかなかの国らしい。面積は神奈川と同じくらいのサイズで人口約50万人という政令指定都市規模にも関わらず、低税率で低失業率を保ちながら、国民一人当たりの実質所得は世界トップクラス。
国としてはスイス同様に永世中立国の立場を取り、ユーロ圏におけるプライベート・バンキングの中心地としてスイスに匹敵する規模を持つという。そして国の主要産業は重工業と金融の二分野。特に金融分野は労働人口の5分の1を占めるほどの雇用を作り出しているという。
南にフランス、東にドイツ、北にベルギーという隣国を抱えるだけに言語もドイツ語、フランス語、ルクセンブルク語が使われ、小国としてなんともうまく周辺隣国と立ち回っているようである。そういう訳でヨーロッパの中の豊かな国・ルクセンブルクというのは理解する。
その次にヴィブラフォン。高校の同級生の中に音大に進んでヴィブラフォン奏者になった人がいて、数度そのライブに誘われて足を運び、そのビジュアルと如何にも響きそうなその名前は覚えていた。木琴の様な鍵盤の上を両手に二つずつばちを持って激しく叩くその動きを見ながら、両手で違う動きをするのも難しいのに、さらにばちの感覚を調整しながら4つの音をコントロールするとはどういう神経をしているのだろうと思った事を思い出す。
そしてパスカル・シューマッハ(Pascal Schumacher)。ネットで調べるとなかなか注目の音楽家のようで、東京のコットン・クラブでも演奏をしているようである。そのページを調べると、なかなかお高いチケット代に驚くことになる。それだけ日本のジャズに対する認知度が高いからなのか、それともどこかでコストが上がってしまっているのか、それともこの北京での演奏がビジネス度外視のものなのか。
最後に愚公移山(yú gōng yí shān)。聞いたことがなかったが、オフィスで聞いてみると結構知っているスタッフがいる有名なライブハウスだという。普段は結構パンクなバンドが演奏をしているようであるが、オフィスから距離も近いので今後はちょくちょくチェックしに行ってみる事にする。
そんな訳でどんな会場かも分からないので、用意していてもらっているチケットを受け取る為にと開演30分前の20;30に到着するが、会場はガランとしている。ライブハウスというだけあって、赤く塗られたコンクリート剥き出しの壁に貼られた様々なバンドのポスターが如何にもな雰囲気を醸し出す。受付で名前を言ってチケットを受け取り、「本当に21時に始まるのか?」と聞くが、「その予定だ」と言われるのでしょうがなく中のバーカウンターでビールを飲んで待ってみる。
21時近くなってもポツポツという感じでしか集まってない客を見て、なんとも怪しい雲行きを感じながら再度受付で確認すると、「少し遅れるかもしれない」というので、一度外にでて簡単に食事を済ませて戻ったのが21時半。それでも演奏は始まっておらず、会場もいまだパラパラ。
誘ってくれた友人の姿を見つけ、その同僚と言う数人を紹介されて、雑談をしているうちにやっとバンドメンバーが姿を見せる。演奏自体は、ドラマーが買い物に使われる安いビニール袋を取り出して、それを両手にドラムを叩きだすなど、かなりエキセントリックなところもあり、後ろで友人が思わず噴出していたりと、「これがルクセンブルクか・・・」と自分を納得させるしかないレベル。
最後の曲に、TravisのSingをカバーした演奏が行われ、ロンドンで大学院に通っている時に何度も何度も聞いていたのを思い出す。10年以上も経った今、まさかこんな場所でこうして耳にするとはと、音楽の偉大さを改めて実感する。
演奏も終わり、バンドの挨拶の時点で紹介されたのは、前の席に何ともカジュアルな姿でリズムを取っていたおじさんがルクセンブルクの中国大使だということ。小国なりの豊かさと生き方をしっかりと見につけている国と国民。いつか実際に行ってみたいと思いながら、会場を後にする。
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