「杭州に行く」と言っていたら、直前まで存在を知らなかったが、日本人のスタッフが「磯崎新の建物が杭州にありますよ」と教えてくれたため訪問地として加えた一つ。
杭州西部に広がる広大な敷地に広がるのが西渓湿地公園 (せいけい)。10平方キロメートルという国家公園として指定され、湿地の成り立ちや、そこに生息する動植物などについて細かい展示かされている。
その一角に位置するのが、西渓天堂と呼ばれるホテルや博物館、別荘地や商業などの複合施設。開発を行うときに人を呼ぶために投入されるのが入場無料の博物館というのは、先ほどの良渚博物館と同じシナリオで、「他に何か新しいアイデアとかあったんじゃないかな・・・」と思いながら歩いていると、それではかなりの人がこの博物館に訪れている姿を見ると何だか納得してしまう。
戦後の日本建築界を代表する建築家として名前を挙げれば必ず出てくるのがこの建物の設計主である磯崎新。恐らく中国国内で最も建築を設計した日本人建築家でもあるのではないだろうか。2014年には上海に素晴らしい音楽ホールを作り出したばかりだが、2万平米と言われる巨大な博物館の巨大な機能と、建築の設計と展示の設計が分断される中国でのやり方に対して、経験も知識も世界トップレベルで持ち合わせる建築家が如何に対抗したのかを楽しみに足を運ぶ。
基本的な構成は、建物自体を土で覆ってしまい、片側から大らかなスロープで屋上緑化として周囲の環境の中に埋もれさせる。その上に展望フロアがUFOの様に浮かんでいる。建築として余りに大きすぎる要求面積を「大部分と地下に埋めてしまって見えなくする」という方式で回答した形になっている。
そんな訳でスロープしてせり上がっていく地面を横目にエントランスへとアプローチしていく。ロビーには巨大な恐竜の模型が置かれ、様々なジオラマを使った展示の雰囲気が味わえる。そのロビーを横切っていくと競りあがる土のボリュームの途中に穿かれた横長の穴の様なテラスへと出ることができ横に広がる湿地公園の水辺へとつながる設計となっている。
水際へと降りる階段の勾配が余りにきついのは、これだけの巨大な建物になるとメインの設計以外はローカルと言われる設計院に任される仕事方式のために、目が行き届かないのはしょうがないのだろうと、この国で設計を行う実務者として日々胸が引き裂かれるような思いに頭をめぐらせずにいられない。
上部の展望テラスへとつながるであろうエレベーターのボタンは何の告知もないが動かなく、しょうがないので諦めることにして、建築というよりも家族連れが休日を楽しむ場として機能する博物館のあり方に少々の悲しみを覚えながら横の商業施設へと足を運ぶ。
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