2015年1月3日土曜日

ピンとこない西湖十景 

「杭州に行く」と決めてから、色々なサイトで「杭州で何を見るべきか」を調べてみる。そうすると必ず中心となるのがこの西湖。そしてその西湖を語るときに必ずセットして紹介されるのがこの「西湖十景(さいこじゅっけい、Xī Hú Shí Jǐng)」。つまり「西湖周辺の素晴らしき10の風景」ということなのだが、ネットで見ている限りどうもピンと来なかった。

通常ではどこの街に行っても、中心となる歴史地区があり、それを象徴する建物が建っており、そこから幾つかの主要道路が走っていて・・・と街の構成とスケールが何となく理解できるのだか、この西湖十景に関してはどうも掴めないまま現地に到着してしまった。

その理由が、こうして2日間西湖周辺を巡り、実際にそれらの西湖十景を訪れてみて分かった気がする。

それは、「風景」というものの難しさ。

文化の中でも一番高位におかれるという「風景」というものの伝え方の問題である。目に映る世界の中からフレームを美しい絵として切り取る「風景」。それには自分の立ち位置に近いものを見る「近景」から、徐々に距離を持ち出し、建物などを視界に捕らえる「中景」、そしてずっと距離を離して自然の世界を全面に捉える「遠景」から構成される。

「近・中・遠」という距離の問題と、それぞれのスケールに合わせた見るべき対象の問題。この二つが複雑に組み合わされて風景が出来上がる。

そしてその風景を構成するための道具、背景となる自然の山などの起伏、その前にポイントとなる人工物、そして風景の焦点となる建築物など、それらが上手く視界の中に配置されることで美しいバランスを作り出す。

それらを上手く整理しない限り、サイトで簡単に「西湖十景」を説明することは不可能で、それがネットで見ていてもどうも「ピンとこない」ことの正体だと理解し、これを簡易に説明するためには都市的な視点と建築的な視点が同時に必要なのだと妻に熱弁を振るう。

せっかくなので、これから西湖に行く方の参考になればと少し自分なりに纏めてみることにしてみる。

まずは背景となるもともとの西湖周辺の風景を想像してみる。平らに開けた東側は古来より住宅地として利用されていたのが想像される。北、西、東には湖畔まで迫るように美しい山が地形に高さを与える。湖の内部には北側に大きな自然の島である孤山が浮かぶ。

そこに西湖の西で湖を東西に分断する強烈な直線としての蘇堤。
西湖の北に湖をさらに南北に分断する短い直線としての白堤



そして風景の焦点となるタワー。
北の「宝石山」の頂上にそびえる「保俶塔(ほしゅくとう)」
南の「夕照山」の頂上にそびえる「雷峰塔(れいふぉんた)」
南東の「呉山(吴山、ごさん、wú shān)」の頂上にそびえる「城隍閣(じょうこうびょう、chéng huáng miào)」



湖の中心に人口の島である小瀛洲・湖心亭・阮公墩が平面の中に点を作り出す。


直線の蘇堤・白堤にも、船の行き来を可能にするために、石橋がかけられ、植えられた柳の切れ目と少し高く持ち上げられた橋が視線の受け場所として作用する。



これらを踏まえて、再度「西湖十景」を、どこから、何を、「近・中・遠」のどの距離感で切り取る風景なのかを図にしてみると、黄色の遠景、白色の中景、赤色の近景と分類できる。

これらの壮大な風景の創作が、時代を超えて様々な人間の手を経て受け継がれてきたこと、そしてそれを現代も多くの人間が感じ取り、感動する対象としていることに、「風景」の持つ大きな力を感じずにいられない。

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