2012年3月23日金曜日

「のぼうの城 上・下」 和田竜 ★★★


友人が必要に進めてくるので日本から中国への移行期に読んでしまおうと手にした二冊。

天下人・秀吉にその才気を愛された石田治部少輔三成。

愛して止まない主人・秀吉が見せた華麗かつ壮大な戦いの姿を、備中(岡山県)高松城にて天下の水攻めとして網膜に焼き付けた光成は、生涯その光景を目をつぶったまぶたの裏に見ることになる。

「俺のこんな戦がしたい。壮大かつ豪気な戦がしてみたい。」と。

時は流れ、信長の後継者の座を圧倒的なスピード感でその手中に納めた秀吉。日本の初の天下人誕生まで後一歩となった時、光成の心の中には「我が生涯の師が天下人にお成りあそばす」と自分を拾ってくれ、その才能を開花させてくれた秀吉への想いで一杯になっている。

小田原城を落とすために悠々と関東へ兵を挙げてきた秀吉。この戦を全国各地の武将達の自分への忠誠度を測るための実験場とし、自らに従わない武将達にはその有能な部下達を討伐へと向かわせる。

その一つ命令。「館林城を落とせ。その後武州忍城 (おしじょう)を取ってまいれ」が光成に下された秀吉の言葉。

現在の埼玉県行田市い位置し、成田氏によって築かれた浮島。当時は成田氏長が城主として君臨するが、小田原の戦いで北条氏につくために小田原に向かっていた氏長の代わりに、圧倒的な兵力を見せ付ける光成軍を迎え撃つ役割を担ったのが、どうにも抜けているが、どうにも憎めない、根っからのでくの坊らいい氏長の従兄弟にあたる成田長親。

正木丹波守俊英や、柴崎和泉守、靱負達などの同年代の家老からは、やや馬鹿にされながらもその器の大きさを認められ、城下の百姓達からは「のぼう様」なら自分達が助けてやら無いとどうにもならないと、官民両方より担がれる形になりながら、天下の一ページに刻まれる戦の舞台へと上がっていく。

圧倒的に勝ち目の無い戦に向けて、家中皆が降伏に傾く中、一人頑なに反対し、ただただ、「降伏はいやなのだ」とぐずる姿に、他の男達は「この男は、異常なまでに誇り高いのだ」と戦うことを決意していく。

侍だけでは戦にならぬと百姓の徴収を始めるが、誰もが戦はいやだと始め拒否するが、長親が親分だと彼のの名前だすと「しょうがねえなぁ」と快諾して武器を持って城に向かう。「だって、あの人は俺たちが助けてやらねえと」と、ここに作者が描きたかった日本の上に達人像が見て取れる。

それは孫子の「有能なるも敵には無能を示せ」にも現されるが、結局物語を通して長親が実際に何を考えて行動をしていたのかは明かされないが、爽快な坂東武者に囲まれて、勝つか負けるかではなくて、どう戦ったかにこだわる戦国の匂いを巻きちらすツワモノたちの中、ただただ異彩を放ち続けるのぼう様。

水攻めは失敗に終わったが、それでも爽快な戦をできたと晴れ晴れとした光成の表情が眼に浮かぶような開城後の面会。そこに自ら使者として足を運んだ光成と、彼がなんとしてもどんな男と自分は戦い敗れたのか、その男ぶりを目に焼け付きたいと願った長親。

「よき戦にござった」

「応」

というそのやり取りに、日本の戦国を生きた男達の生き様を見せ付けられるような気がする。

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第139回直木賞 ノミネート
2009年本屋大賞 2位
2008年キノベス 3位
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