東京のスカイラインを作り出す高層ビルが立ち並ぶ景色。その景色に圧倒され自分もその景色作りを担いたいと希望を胸にゼネコンへの就職を希望するが、最終面接で担当役員から言われるのは、
「うちのような中堅ゼネコンに都庁の様な建物が建てられると思うか?うちが建てるのはそこらへんに建っているなんの変哲もないビルだけだ。それでも夢があると思うか?」と。
それでも答えるのは、
「なんの変哲もないマンションにも、そこに生きる人の夢が詰まっている」と。
このやり取りが心の琴線に触れない建築関係者はいないのではと思うほど、建築に関わる人たちのリアルを描いている。大学で名作と言われる歴史を彩る建築があたかも最上のものとして教育にそまって社会にでてぶち当たらる葛藤。
しかしそこで配属された部署で、いかに今まで教えてこられた、自分が知ってる建築の世界が実は建築のほんの一部分でしかないと学ぶことで、妥協ではなく、さらに上位の視点をもって建築に携わることの充実感。と割り切ることができるかの更なる葛藤のループ。
高度成長を支えてきたのは、間違いなく全国に待ちきらされた公共事業であって、それを束ねるゼネコンとその下にあまたぶら下がる下請け業者。その何百万という人への待遇を厚くすることでなりたってきた社会構造をたった一つの「談合」という象徴で表し、社会の変化から「脱談合」へと体制を変えなければいけない大きな転換点に立つ人々が、「悪か必要悪か」という視点だけでなく、会社の中で生きる一人の人間としての葛藤と、それを外から見る純粋な視点の暗喩として使われる彼女の葛藤も重なり、綺麗ごとだけでは決して物事を前に進めることができないと突きつける良書。
建築を学ぶ学生にもぜひ読んでもらいたい一冊。
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「鉄の骨」 池井戸潤 講談社文庫 2009 ★★★★
目次
第一章 談合課;
第二章 入札;
第三章 地下鉄工事;
第四章 アクアマリン;
第五章 特捜;
第六章 調整;
第七章 駆け引き;
最終章
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第31回(2010年) 吉川英治文学新人賞受賞
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