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S邸 MAD 2010
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所在地 東京都渋谷区
設計 MAD
竣工 2010
機能 住宅改修
担当 二ツ木、新井
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銀座に明治元年から営む老舗の呉服屋さん。その女将さんの御自宅の改修工事の設計をさせて頂き、なんとか年内に形になった。
少し前のカンブリア宮殿の銀座特集でも出演され、本物の着物を伝えていくというコメントそのもので、本当に質の良いものとは何かを教えていただいた現場となった。
高齢ということで、寝室を一階にもって行き、全ての生活空間をワン・フロアにまとめ、再度生活の形を見直すということで、引越したいただくことはせず、犬も一緒に居ながらの生活の中で、順々に進めていくという方式。しかも木造の改修ということもあり、壁を開けてみないと分からないことも重なり、当初予定から大幅に工期を延長しての現場となった。
宮脇檀の言葉ではないが、図面で説明しても、一般の人には何が何だか分かるはずもなく、模型を使って説明するのとあわせながら、ほとんどが実際に作ってみながら検証をするという流れになり、目線の高さや上下動の不自由さ、食器の多様さなど、圧倒的に多くの時間を重ねてきたお施主さんに、どれだけ自分の身体を投影して、数ミリの単位を決定していけるか、そんなことを勉強させていただいた、建築家として、そして一人の人間として、とても意義の大きな経験をさせていただいた。
喉の奥にひっかかる魚の骨のように、少しの不満でも残って使用していったもらうよりは、どんなねちっこくでも、どんな時間がかかっても、お施主の要望はなんとか受け入れ、さらに良い提案を出来なければいけないんだと、身にしみて感じることが多かった気がする。
生活を共有させていただくといくことで、アルバムの整理なども一緒になって生活の中に入っていくと、GHQの前で日本舞踊を踊った時の写真や、東京大空襲の焼け野原の実家に一つ残ったカップなど、本当に良質なものに囲まれた濃密な時間を過ごされてきた人たちから、様々なものを教えていただいているんだと思う。
偽りのない、肌触りの良い空間にという思いを込めて、床・壁・天井全て木で仕上げ、不純なものを出来るだけ排除しながら、大きな大きな一本の木から抉り取ったような空間を考える。一本の光として天井をなめる照明と、突きつけで強引に貼ってもらったシハチのシルバー・ハートの効果が良く出て、寺社のような優しい広がりのある天井の下にいると感じる感じの良さは、どうにも写真には写りにくいと頭を抱える。
3階の子供部屋の改修では、秘密が隠されてるような屋根裏部屋にしたく、南から暖かい陽が差し込む、白いアティックとして仕上る。足の裏の、無垢の桐のフローリングの白さにどのような時間が刻まれていくのかが楽しみだ。
あるべきものをなくし、全てを白く塗りつぶすことで、なんとなくモダンな雰囲気をだすことから距離を取り、大工さんとお施主さんと一緒になって考えて、お施主のこれからの10年を許容することができる、陰影のある空間として、よい時間を作り出す空間になればと思いを馳せる。
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