当たり外れが激しいのが恩田陸。「夜のピクニック」から「ライオンハート」への落差には驚いたが、まぁその時々に、書きたいことを自由に書いている人なんだろうと思う。
そんな中、また書きたいことを書きたいように書いたんだなと思う物語。「イニシエーション・ラブ」のようなどんでん返しも待ち受けず、真実なんかどうでもいいでしょ、と言わんばかりの素振り。残るのは、今年の様にひたすら厚い夏の日々と、音と匂い。ただしそれがなんだか心地いい。
目の見えない人物が登場することで、世界の描写のしかたが一気に視覚から聴覚・嗅覚へと振られる。本のタイトルが意味することも、関係者の言葉として書かれる各章での情報の錯綜も、ミステリーとしての最低限のマナーとしての犯人像も、そんなものはどうでもよくて、音と匂いと皮膚感を頼りに暑かった夏を書いてみたかった、そんな言葉が聞こえてきそうな、名にたがわない日本推理作家協会賞受賞の傑作ミステリー。
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