クリスマスも終え、今年もあと数日となった暮れのある日。半日ほど自由な時間が出来たので、山か建築かで迷った挙句、山登りの格好で建築を見に行くといく着地点で納得し、ざっと読み終えた内藤廣のちひろ美術館・東京をさらっとみて、日本でなかなか見かけないターミナル駅を持つ、小江戸・川越へと一人、足を運ぶ。
通過点でも、乗り換え点でもなくて、電車が一方向から入ってきて、溜りのできるターミナル。ロンドンのパディントン、セント・パンクラス、ウォータールーや、ニューヨークのグランドセントラル、ローマのテルミニなど、線路が行き止まりになっている頭端式。日本では高松駅など限られた場所でしか見られないが、大きな旅行カバンを抱え、自分の電車が入ってくるのを待つバック・パッカーや、キスやハグで出会いと別れを繰り返す人々。そんな場所を優しく覆ってくれるターミナルの大屋根。
せめて、東京駅くらいはそんな絵になる駅に戻してもらえればと思わずにいられないが、そんなターミナルのある街・川越。上記の世界の駅には遠く及ばないが、どんな溜りの場所があるのだろうかと浮つく心を抑えながら到着する西武の本川越駅。そこにあるのはなんともしょぼくれた駅空間・・・。終着駅は逆から見れば、始発駅で、日々、通勤と帰宅を繰り返す関東圏には劇的空間などは存在する余地はないんだと肩を落としながら駅前をそそくさと抜け出す。
初めて訪れる街では、なによりも歩くのが一番スケールが分かるというので、日も暮れた駅前から確実に参拝時間を終えているだろうと思いながらも、日本3大東照宮という仙波東照宮へ足を向ける。人口30万強というから、典型的な地方都市のサイズ通り、駅前を抜けるとすぐに住宅地へと入り、街灯も少ない道を行きかうのは、シャカシャカと音をさせるライトをつけた自転車ばかり。
まったく人気のない夜の仙波東照宮の階段を登り、ちらっと中を覗き見して、その横にある喜多院へ。恐らく川越に生活を持つ人は、後数日後の大晦日にはここに初詣に来る人が多いのだろうと思える広々とした境内。夜だが、開放された境内でお参りをして、一番街へと向かう途中に現れた杉張りの感じの良いボリュームの成田山別院を写真におさめ、寒空の下を暫く歩き、暗闇にライトで照らされた頂部のみが闇夜に浮かぶようにした現れる時の鐘に少なからぬ興奮を覚え、その先の一番街の街並みで、夜の散歩が報われたことを実感する。
ガードレール無しの石畳の道。車道は両側一車線づつ。ゆったりとした歩道を挟んで、感じの良い街灯が並べられ、土地所有の残余としての空虚のない、面としての壁による街並み。基本的に二階建てに揃えられ、ところどころ面に高さが与えられる。昼と夜、反射光か透過光か。日本建築は昼の建築だと言われるが、黒壁で覆われて、土間の奥まで透ける面の街並みでは、室内が舞台の一シーンのように浮かび上がり、声が聞こえるくらいの調度良い距離を歩ける、日本では稀に見る歩いていて楽しい道。
感じの良い路地や、面を壊さないプロポーションの良い洋館建築を見ながら気分良く駅前に向かうと、徐々にしょぼくれた商店街へと変わっていく。歩くのも、見るのも、なにも楽しくないシャッター街に残念さを感じながら、その最たるものの駅ビルに再度戻るのも忍びないので、天国の看板を脇目に、西武で来たら東武で帰ろうと川越市駅へと足を向ける。
--------------------------------------------------------
0 件のコメント:
コメントを投稿