2013年を代表するSF大作であるのは間違いない。やはりトム・クルーズが出るからには、下手な映画は作れない。
映画という創造力が生み出す世界においては、重力や経済性など現実の世界で足枷となる要素を考慮することなく世界を構築することができるので、あまりにトンチンカンなものにならないように、専門家がしっかりとしたアドバイスを与えながら構築されたものは、かなり刺激的な「未来」の世界を見せてくれることになる。その中にある建築の姿もまた、関わったデザイナーか建築家が思い描く未来の技術を持って作り出された進歩した建築の姿であり、それを見ることはSF映画を見ることの楽しみの一つである。
難波和彦が言うように、ピカピカするばかりでなく汚れもする未来を見せたスター・ウォーズの後に、エイリアンが提示したドロドロした液体をもった未来を見せられた人類がたどり着いたのは、アバターが描いたより自然に近くなり、共生を志向した未来。
その世界観の後に人類はいったいどんな新しい未来の世界観を描き出す事ができるのか?そんなことを思いながら既に数年が経ったなかで作られたこの映画。しかし新しい世界観が展開されること無く、あくまでもピカピカした無菌室の様な、コントロールされた「宇宙への旅」の様な未来観の延長上にある世界。
すべてが「つるん」とした印象で、建物も乗り物も全て丸みを帯びた流線型デザイン。流体力学がこの世の答えだと言わんばかりに、まさにプロダクツ・デザインの精度が建築も都市も呑みこんでいく未来像。
そのツルツルピカピカの世界はプロダクト・デザインの延長であり、カー・デザインの延長。人間工学と流体力学のというのは、人の手を介さないシュミレーションによってもたらされる「最適化」のデザイン。自然界の様々なパラメーターを高度なコンピューターによって同時に解析し、その中で負荷を最適にする。
現代の建築界を脅かすこの動き。環境デザイン、サステイナブル・デザインと呼ばれる、あたかも絶対的な正であるように見えるその設計手法は、デザインしないことで、最適化する方法。
そこから剥奪される、漂白されるのは人の感性。何をもって美しいと思うかのクオリアの問題。自然界の中の様々なパラメーターを通して最適化された形は、それ自体がある種の自然の摂理を体現し、自然がそうであるようなある種の美しさを持ち合わせる。しかしそれだけでないのが建築の美しさ。不条理なところを持ち合わせる人の温もり。決してコンピューターだけでは辿りつけない何かがあるはずだ。
そんな問いを突きつけられるような思いをもって見終えることになる。
タイトルである『オブリビオン(oblivion)』とは聞いた事のない英語であるが、その意味は、「(世間などから)忘れられている状態;忘れて[ぼんやりして]いる状態, 無意識の状態」だという。
地中が核戦争によって不住の地となったあと、宇宙空間に新しい居住地を求めた人類。そして地球を監察する役割となった主人公が最後に気づくトリックを理解すると、タイトルの意味もなんとか理解できるのだが、それにしても全編に渡って展開される様々なSF映画から切っては貼ってきたようなコラージュを感じさせるシーンはある種の懐かしさを感じさせずにいられない。
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スタッフ
監督ジョセフ・コジンスキー
キャスト
トム・クルーズ;ジャック・ハーパー
オルガ・キュリレンコ;ジュリア
モーガン・フリーマン;ビーチ
メリッサ・レオ;サリー
アンドレア・ライズボロー;ヴィクトリア
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作品データ
原題 Oblivion
製作年 2013年
製作国 アメリカ
配給 東宝東和
上映時間 124分
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