設計・監理を行わせてもらった住宅の竣工後一年を過ぎたということもあり、季節ごとの様々な負荷にさらされて出てきた改善点や、実際に生活してみて分かってきたところなど、毎日この家と時間を共にするお施主さんからの正直な意見を聞かせていただき、担当していただいた工務店の担当者の方と共に、どのような対応策が一番効果的かを検討するために熊本にやってくる。
住宅の設計というのは、住むための家を想定して設計を行うことであり、本来の目的は建てることではなく、住まうことであるということをつくづく再認識させてくれる瞬間である。
設計の時には実際にお施主さんもその家に住んではいないので、できるだけ細かい部分まで想像しながら、こうなるのでは?と想定をベースとして設計を進めていく。しかし、人の生活とは想定どおりいかないもので、ましては日々変化する自然に晒される建築の宿命から、理想的な青図からの徐々に徐々にづれていってしまう。
そのズレを修正し、施主の生活に合わせてカスタマイズしていきながら、実際に住宅という建物が、その人たちだけの「家」と成長していく。その過程を見守りながら、そして一緒に悩みながら、より良い「家」を作っていくことこそが、建築家の仕事なのだと痛感する。
引渡しとしてとりあえず、社会的な職責は果たすことになるが、工事を担当した工務店と共にその後の成長がいかに自らの頭の中にあった青図を完成させていけるか。それが同じ必要もなければ、もっと良いように描きなおすことだって可能だということ。
そんなことを思いながら、建築が物理的な存在で、一つ一つの部材の組み合わせであり、自然素材はソリや膨れで日々形状を変えて、日の光によってはげてきた塗装や、鉄から出てくる錆びなどを見て、時間の先を見据える力の大切さを再度思い、それと共に時間と共に色あいを変え、より周囲の環境に溶け込み始めたその姿に喜びを感じる。
想像する青図の中から聞こえてくる沢山の喜びに満ちた声が、実際にこの家の風景になっていけるように建築家としてできることは沢山あるのだと心に誓う。
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